2026.07.15
最終更新日:2026.07.15

【染谷将太インタビュー】 映画『チルド』|お芝居することは生活の一部になっている

第76回ベルリン国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞したことでも話題の『チルド』。同じ商品、同じ挨拶、同じ時間。コンビニという均質化された空間を舞台にした本作で描かれるのは、決して特異な出来事ではなく、すでに私たちが生きている現実そのものである。主演を務めた染谷将太さんに話を聞いた。

いちばんの特等席で現場を楽しんだ

染谷将太

――染谷さん演じるコンビニ店員の堺は、無気力で意志がなく、ただ毎日を無感動に生きているという役でした。ほとんどアクションを起こさず、細かな表情だけで感情を表現しなければないので、演じるのは難しかったと思いますが、役を理解するにあたって岩崎(裕介)監督とはどのような話をしましたか?

染谷 監督からは、堺はご自身がモデルで、コンビニのオーナーである西村まさ彦さんの役は監督のお父さまを参考にしているという話をしていただきました。実際に監督のご実家がコンビニで、毎日同じ業務の繰り返しの中で父親がだんだん無機質で人間味の薄い存在へと変わっていったように感じられたそうです。映画は人間らしさみたいなものが削がれていく話になっていて、どんどん空っぽになっていくさまがすごく恐ろしいなと僕は思いましたが、監督は伝えたいことは特にないとおっしゃっていたのが印象的でしたね。自分の思っていることと、監督の中の概念みたいなものが乖離しているというか。伝えたいことは確実にあるにもかかわらず、それを概念としてとらえていないことが面白いし、それはそれで監督なりの虚無なのかなと思いました。

染谷将太 2

――撮影が始まって、現場ではどんなやり取りがありましたか?

染谷 堺という役は、何もしないということをしなければいけない役で、監督も「ただいるだけにしたい」とおっしゃっていたので、それが自分としては難しかったんですけれども、現場では監督ご自身が「こんな感じです」と実際に演じたりして、それがすごく役立ったし、面白かったです。ただ立っているだけで成立するような環境にしてくださったので、自分としてはいちばんの特等席で現場を見て楽しんだという感覚です。


――監督とは同世代です。感覚や考えで共通点を感じる部分はありましたか?

染谷 最初に台本をいただいたとき、この本を書く人はたぶん人として信頼できるなと思いました。堺の無常な感じといいますか、マイナスでもプラスでもない、ずっとゼロ地点にいるという感覚は自分自身もわからなくはないんです。現場で緊張しないようにするために、普段からわりかしゼロでいようという心構えをしていますし、冷たくも熱くもない温度感というのは同世代と言われる人たちに感じたりすることもあって、その部分は監督に対しても感じました。

染谷将太 3

――撮影していて印象に残っている場面はどこですか? 個人的にはファミレスのシェフの場面は笑ってしまいました。

染谷 そのシーンは、自分も現場で笑いをこらえるのは大変でした(笑)。小河役の唐田(えりか)さんを見ているんですけど、その奥で確実におかしなことが行われていて、でもそれには一切反応しないという異様な状況だったので、笑いをこらえるのに必死でした。ひどい出来事なのに、一歩引いてみたときに滑稽に感じるというのは、なんだか人間っぽいというか、ちょっと愛おしく感じたんですよね。そのシーンをただただ怖いという人もいれば、笑ったという人もいて、本当にいろいろな感想を聞くので、それぞれの感覚で楽しんでもらえる作品になっていると思います。

染谷将太 4

人を見るのが好きなんです

――今、お芝居するということは、染谷さんにとってどういうものになっていますか?

染谷 そうですね。自分の中では生活の一部ですね。現場に行くのはもちろんそうですけれども、現場に行くまでの準備、それこそ家の中でも台本を開いたり、何かしらの作業をしていたりするので、そういう意味で生活の中に入り込んでいるのかなと。でも、それが自分はイヤということではなくて、むしろ生活の一部として扱えているからずっと続けられているのかなと思います。


――最近気になっていることは何ですか?

染谷 大きなものはないかな。それよりも目の当たりにしたものに興味があります。例えば、現場に行ったらたくさんの人がいるじゃないですか。「この人はこういう性格なのかな」とか「この人はこう考えているのかな」ということをよく想像していますね。人を見るのが好きなんです。街中でもすごく人を見ちゃうので、目が合っちゃうときが多々あって。そのたびに「ごめんなさい」みたいな気持ちになっています(笑)。


――人間観察がお芝居の役に立っているという実感はあるんですか?

染谷 あります。会話をしている人がいたとして、2人はどんな関係性なんだろうって想像しながら見ていると、会話のトーンであったり、親子じゃないと思っていたら親子だったり…。そういう発見があって、結果的にお芝居にも生かされているなって思うことは多いです。

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――将来のビジョンみたいなものはあるんですか?

染谷 まったくないですね。この仕事は続けていきたいというか、この仕事しか自分はできないから続けていくんですけど、未来は本当にわからないです。ここからどういう出会いがあるのかまったく想像できない。でも、想像ができないぶん楽しみでもあって、年を重ねてできない役も増えてくれば、反対に年を重ねることでできる役も増えていくと思うので、それがどういうふうに自分に影響していくのかすごく楽しみです。


――お芝居以外でいうと、監督としての顔もあります。短編映画はこれまでに何作か撮っていますが、長編を撮ってみたいとは思わないんですか?

染谷 撮ってみたいです。死ぬ前に1本は撮ってみたいなと思います。ざっくりこんなことはやりたいみたいなのはあったりはするんですけど、でも全然まだぼんやりしています。


――今、いちばんやってみたいことは何ですか?

染谷 何ですかね。ゴルフをやってみたいかな。まだやったことがなくて、この間コーチを紹介してもらったんです。自分の人生とは程遠い存在だと思っていましたけど、周りでやっている人が増えてきて、みんな「面白い」と言うし、コースに出たら気持ちよさそうだなと思って。1度も経験しないで死ぬよりか、1度は経験したほうがたぶんいいですよね。

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ジャケット¥661,100・中に着たニット¥320,100・パンツ¥180,400・ベルト¥445,500/エルメス(エルメスジャポン︎)
俳優
染谷将太

1992年生まれ。東京都出身。7歳で子役として活動を開始、9歳で『STACY』(2001年)に出演し映画デビュー。『パンドラの匣』(09年)で長編映画初主演。『ヒミズ』(11年)で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。主な出演作に『寄生獣』(14年)、『バクマン。』(15年/大根仁監督)、『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(18年)など。公開待機作に『国境』(27年公開)がある。

『チルド』
7月17日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田ほか全国で公開

『チルド』

監督・脚本:岩崎裕介

出演:染谷将太 唐田えりか 西村まさ彦 くるま 長島竜也

東京の片隅にあるコンビニ〈エニーマート倉富町7丁目店〉の店員・堺(染谷将太)は、学生時代に働き始めて以来、気づけば20代のほとんどをこの店で過ごしてきた。コンビニというシステムの象徴ともいえるオーナー(西村まさ彦)のもと、同じことをただ繰り返していくだけの日々。そこへアルバイトの小河(唐田えりか)が現れたことで、店の均衡は静かに崩れ始めていく――。

配給:NOTHING NEW
©︎『チルド』製作委員会(NOTHING NEW・東北新社)

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