2022.04.08

遠野 遥(作家)「小説なら自分でもできるかなと思ったから」

第56回文藝賞でデビューした後、2作目で第163回芥川賞を受賞し、新時代を担う書き手として異彩を放つ遠野さん。冷徹さを感じるほどに感情を抑制した文体から受けるイメージに反して、その着想源は意外な趣味にあった。

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遠野 遥さん(作家)

落ち着いた表現と、常識を揺るがす世界観。小説好きを熱中させる彼自身の言葉は、ピュアで噓がない。

「大学生のときは暇だったので、書店であるときふと自分にも書けると思ったんです。PC一台で始められるからハードルが低くて。当時は書くたびによくなる手応えがあり、アイデアも多く、一年で中編を3本書きあげていました。初めての文学賞は一次予選落ちでしたが、単純に郵便事故かもしれないし審査員が理解できていないんじゃないかと思って。もちろん勘違いでしたが。最近は面白さへの基準が上がり、書きながら違う筋が次々と見つかるし精査もする。目的地になかなか辿り着けません。でも苦しくはないですよ。自分の文章が好きなので楽しいです」

いまの執筆の着想源とは何か。

「憧れの作家は特にいません。自分が読み手でも、書き手の『憧れ』が文章から見えたとたんに冷めてしまう。執筆は日々のいろいろな出来事が、自分の身体を通って外に出ていく感覚。特に漫画やお笑いの動画をよく見ます。いまは『ジャルジャルアイランド』が好きで、狂気を感じるシュールな笑いは小説に生かせる面白さです。現代アートも好きでよく美術館に行きますし、インスピレーションを得られます」

主張を押しつけず読み手に解釈を委ねる彼の小説も現代アートのようだ。


HARUKA TONO
1991年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。大学在学中に執筆活動を開始し、2019年『改良』(河出書房新社)で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』(同)で第163回芥川龍之介賞を受賞。今年1月には、受賞後第1作となる初長編『教育』(同)を上梓。同日に『改良』の文庫版が発売された。



Photo:Teppei Hoshida Hair&Make-up:Narumi Tsukuba Stylist:Masanori Takahashi Interview&Text:Takako Nagai

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