俳優・賀来賢人と脚本家・映画監督のデイヴ・ボイルが共同設立した映像製作会社「SIGNAL181」。その第1弾作品となる『Never After Dark/ネバーアフターダーク』は、ホラーというジャンルについて邦画と洋画それぞれの特色が混ざり合った新感覚の作品だ。俳優として第一線を走り続ける賀来が、なぜ“つくる側”へ踏み出したのか。作品の裏側とともに、創り手としての現在地を聞いた。
「こんなチャレンジ、なんでしたんだろうって(笑)」
――初プロデュース作品のNetflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』を経て、新作『Never After Dark/ネバーアフターダーク』に取り組む中で、変わったなと感じた部分はありますか?
賀来 プロデュースは2回目とはいえ、製作会社を立ち上げて最初のデビュー作品でもあるので、前回とは全然違いました。今回は劇場映画ですし、資金集めから全部、自分たちでやったんです。
日本映画はたくさんの出資者が入って作ることが多いんですけど、今回はかなりシンプルな体制だったんです。そのぶん、「自分たちはこうしたいよね」っていうものをブレずに突き詰められたというか。クリエイティブも、なるべく自分たちの目の届く範囲でコントロールしたいっていう思いがあったので、そこはすごくやりやすかったですね。もちろん大変ではあったんですけど、結果的にはその形がうまくハマったなと思います。
――『忍びの家 House of Ninjas』の経験も大きかったですか?
賀来 めちゃくちゃ大きかったです。『忍びの家 House of Ninjas』でも言いたいことは言わせてもらったんですけど、入り込める範囲には限界があって。今回は本当にゼロから自分たちで作らなきゃいけなかったので、責任の大きさが全然違いました。
だから途中、「こんなチャレンジ、なんでしたんだろう」って何回も思いました(笑)。でも、本当にやってよかったですし、勉強になることばかりでしたね。
――「SIGNAL181」の第1弾作品として、なぜ“ホラー”を?
賀来 “最初の企画、何が自分たちらしいんだろうね”ってデイヴと話していて。ホラーって、比較的少ないバジェットでもアイデアひとつでリッチに見せられるジャンルだと思うんですよ。あと、世界共通で楽しめる強さがある。言葉を超えて伝わる部分もあるし、アクション映画とも少し似ている気がしていて。そこがホラーというジャンルの強さだなと思ったんです。
デイヴからアイデアをもらって、それを日本の市場にも合うように調整していったら、世界にも届く作品になるんじゃないかなと考えて、ホラー作品を作ろうと決めました。
――いわゆるジャパニーズホラーとは違う印象を受けました。
賀来 そこはすごく意識しましたね。人間味もあるし、視覚的にも楽しめる作品にしたかった。小物ひとつにしても、「このキャラクターはこういう時計を身につけるんだ」とか、細かいところまで全部考えていて。キーアイテムの回転鏡だったり、音楽だったり、全部含めて世界観を作っていった感じです。
あと今回は、日本と海外のミックススタッフだったんですよ。日本独特の湿度のある怖さと、海外ホラーのちょっとポップな感じ。その両方をうまく融合できないかなっていうのは、ずっと念頭にありました。結果的に、洋画とも邦画とも取れる質感に仕上がったと思っています。
“怖い”だけでは終わらないホラーにしたかった
――実は私、ホラーがかなり苦手なんです。でも、怖さ以上にストーリーに惹き込まれました。
賀来 嬉しい! やっぱり、なるべく多くの方に楽しんでもらいたいんですよね。ホラーが苦手な方にも届く作品にしたかったので、そのバランスは意識していました。僕たち自身、“とにかく怖いものを作るぞ”っていうテンションで作っていたわけではなくて。どちらかというと、本質にあったのは人間ドラマやストーリーの面白さだったと思うんです。もちろん、ホラーファンの方にも満足してもらえる作品にはなっていると自負していますが、怖さだけじゃない余韻みたいなものも感じてもらえたらいいですね。
――音楽や音の演出もとても印象的でした。
賀来 “音”に関しては、めちゃくちゃこだわりましたね。音楽はジョナサン・スナイプスというクリエイターが担当してくれているんですけど、彼の作る音楽が本当に不気味でユニークで、すごく耳に残るんですよ。劇中で流れるレコードの音楽もジョナサンが作曲したもの。実はあの曲だけは撮影前から完成していたので、現場でも実際にその曲を流しながら、主演の穂志もえかさんに芝居をしてもらっていました。
――あの曲はホラー作品っぽくない軽快なサウンドで観ていてホッとしました。
賀来 この作品は、本当に音楽に助けられているんですよ。説明セリフもかなり削っているので、なるべく“目と耳で体験してほしい”と思っていて。だからこそ、音が持っている力ってすごく大きいなと改めて感じましたし、そこは新鮮に楽しんでもらえるポイントなんじゃないかなと思います。
――現場でのコミュニケーションはいかがでしたか? 俳優として活動されてきた経験が活きた瞬間もありました?
賀来 あったと思います。自分が俳優として、「こういう環境だったらやりやすいな」とか、「スタッフだったらこうしてほしいな」っていう感覚があるので、そこはなるべく現場にも反映できるようにしていました。
例えば、お茶場を充実させたりとか(笑)。あとは、なるべく風通しをよくするとか。立場関係なく、みんなとフラットに会話することは心掛けていましたね。それこそ、デイヴ自身がすごく温和な人なんですよ。現場全体もすごくピースな空気感で進んでいました。
――ホラー映画の現場って、もっと張り詰めた雰囲気なのかと思っていました。
賀来 いやいや、全然ですよ。和気藹々としていました。ホラー映画の現場って、意外とみんな笑ってるんじゃないですかね。僕も笑ってましたし、デイヴもずっと笑ってましたし。かなりリラックスした状態で撮影していましたよ。
余白を残す。賀来賢人の働き方
――俳優業に加えてプロデュースも手掛けるようになったことで、仕事の選択肢は広がりましたか?
賀来 役者として求めてもらえることは、本当にありがたいんです。興味のある作品ならもちろんやりたいですし。でも今は、“自分たちで作る”という選択肢が増えてしまったので(笑)。「やりたいものを待つ」のもそうですけど、「やりたいものを自分たちで作っちゃう」っていうことが可能になったんですよね。だから今後は、自分が出演しない企画ももっとやってみたいなと思っています。
――俳優、製作、プライベート……時間の使い方もかなり難しくなりそうですね。
賀来 めちゃくちゃ難しいです(笑)。だから最近は、なるべくスケジュールを埋めないようにしていて。一年先まで全部埋めるんじゃなくて、余白を残しておく。何が起きても対応できるようにしておきたいんですよね。暇だったら暇で家族と過ごせるし。そのバランスが今のところうまくいっている気がします。
――うまく時間を使いながら、今後はどんな作品を作っていきたいですか?
賀来 全部に言えることなんですけど、やっぱり“みんなが楽しめる作品”を作りたいんですよ。観ている方を置いてきぼりにはしたくなくて。僕にとってのエンタメって、映画館でポップコーンを食べながら観られるものなんですよね。もちろん尖った作品も素晴らしいんですけど、なるべくたくさんの人が楽しめるものを作りたい。それがずっと自分のテーマなんです。一定数に届けばいい、という感覚ではなくて、「どうすればもっと多くの人に楽しんでもらえるか」を考え続けたいなと思っています。
――その感覚に影響を受けた作品はありますか?
賀来 最近は絵本とかアニメから影響を受けることが多いですね。そういう作品を作りたいっていうわけではないんですけど、ヒントが隠れていることがすごく多いんですよ。子どもと一緒にアニメを観たり、絵本を読んだりするんですけど、「うまいなぁ」って思うことが本当に多くて(笑)。良い絵本って、限られたページ数の中に全部詰まっているんですよね。大人が読んでも面白いし、感情も動かされる。だから、いつか絵本やアニメにも挑戦してみたいなと思っています(笑)。
――最後に、何か新しいことに挑戦しようと思っている人へメッセージをお願いします。
賀来 まずは健康に(笑)。結局、体が持たないと仕事も何もできなくなるんですよね。その上で、自分の人生の残り時間を逆算して、「何ができるんだろう」って考えることは結構あります。人生って一回じゃないですか。だから、やりたいと思ったらやったほうがいい。挑戦することに、遅いとか早いとかは関係ないと思っているので。健康を第一に、自分のペースで、一歩ずつでも前に進んでいけたらいいんじゃないかなと思います。
作品情報
『Never After Dark/ネバーアフターダーク』
企画・製作:SIGNAL181
脚本・監督:デイヴ・ボイル
プロデューサー:賀来賢人
出演:穂志もえか、稲垣来泉、賀来賢人、吉岡睦雄、正名僕蔵/木村多江
2026年6月5日(金)公開
© 2025 Signal181, Inc. All rights reserved.
『Never After Dark/ネバーアフターダーク』公式サイト
STORY
霊媒師の一族に生まれた愛里(穂志もえか)は、霊となった姉・美玖(稲垣来泉)とともに怪現象の解決を請け負っている。ある日、人里離れた洋館のオーナー・禎子(木村多江)から、“昼夜12時台に現れる男の亡霊を祓ってほしい”という依頼を受ける。調査を進める中で、不気味な電話や動き出す柱時計など不可解な現象が次々と発生。さらに、屋敷に隠された過去と姉妹の秘密が浮かび上がっていく。やがて、亡霊の正体と惨劇の真実が明らかになる――。
PROFILE
1989年生まれ、東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台など幅広いフィールドで活躍する。近年の主な出演作に『今日から俺は!!劇場版』、ドラマ「半沢直樹」、ドラマ「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」、ドラマ「マイファミリー」、Prime Video「龍が如く〜Beyond the Game〜」、Netflixシリーズ「今際の国のアリス シーズン3」など。Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」では主演とプロデュースを務め、本作をきっかけに映画監督のデイヴ・ボイルと共同で映像製作会社「SIGNAL181」を設立。『Never After Dark/ネバーアフターダーク』はその第1弾作品となる。