直木賞作家・小川哲の傑作ミステリー『君のクイズ』がついに待望の実写映画化を果たした。主演を務めた中村倫也さんに、作品のこと、お芝居のこと、さらには最近疑問に思っていることなどを聞いた。
のちのち少しでもラクできるように準備する
――本作で中村さんは、クイズ界の絶対王者・三島玲央を演じています。三島という役をどのように捉えていったのですか?
中村 三島はすごくストイックですよね。それこそ原作はほとんど三島のモノローグで進むので、機微が見えやすかったりするのですが、映画の中の三島は台本を読むかぎり、ちょっと何を考えているかわからない感じがある。そのことを吉野監督に伝えたら、監督も同じ意見で、「クイズのためにいろいろなことを捧げている人だと思います」と言われて、すごく納得しました。ストイックでわかりづらい部分と、とてもナイーブで柔らかい部分と、いろいろな部分が三島という人間の中にはあって、それらを丁寧に摘み取って、ちゃんと存在させていかなきゃいけないなということを考えましたね。
――ストイックという部分では、中村さんもそうなのでは?
中村 ストイックといえばストイックなんでしょうけど、どっちかといったら当たり前にラクしたい人間ではあるので、のちのち少しでもラクできるように準備するタイプですね。小学校の夏休みの宿題とかも、夏休みに入ってすぐ終わらすタイプでした。そういうところは今も変わらなくて、例えば水垢とかも放置しておくと頑固になって、コンパウンドしないといけなくなるから、そうなる前にやっておく。たしかにストイックというか、几帳面ではあるんですけど、それはなぜかというとラクしたいからです。仕事でも、現場で苦労したり、慌てたり、後悔したくないから、手前でやれることをやっておくっていうだけのことです。
――『君のクイズ』は、神木隆之介さんやムロツヨシさんとの共演も話題です。
中村 僕はムロツヨシさん史上いちばんのハマり役だと思っているんですよ。大いに信頼できるふたりに、それぞれちゃんと緊張感を持ちつつ、的確な矢印を真ん中の僕に飛ばしてくれたことがすごくありがたいし、さすがだなと思ったし、楽しかったです。ふたりとも真ん中もやる人だから、やっぱりわかるんだと思うんですよね。真ん中をどれだけ動かせるかって、サイドや脇が大事なんです。僕も脇に回るときはそのつもりでやっています。僕のことも、仕事のこともわかってくれているふたりが好きにやってくれたので、楽しいことがいっぱいありました。
――特に印象深い場面はありますか?
中村 ネタバレにならないようにしゃべらなきゃいけないんですけど、本庄との対峙でいうと、後半の場面で明らかに台本にない動きを隆がしたんですよ。それをやる前に監督と何かしゃべっているなとは思っていて、テストのときにその動きをしてきたので、その場で僕もぼんぼんぽんと返して。そういうやり取りができたのは楽しかったです。スリリングだし、刺激的だし、結果的に意味のあるものになったなと思えたので、そういう矢印を持ち込んでくれた隆はさすがだなと思いました。
どう自分の栄養素にできるかということは常に考えていた
――クイズプレイヤーは、問題を聞いて、一瞬でさまざまな選択肢の中から答えを導き出していきます。中村さん自身、選択に迷ったとき、いちばん大事にしていることは何ですか?
中村 迷うことがあんまりないです。思考パターンがシステム化されているというか、選択肢がいくつかあったとして、それぞれにメリット、デメリットがあるわけですよね。それをまず天秤にかけて、そのうえでやる意義があるものはどれか、見てくれる人がわくわくするものはどれか、といったフィルターを通していくと、おのずと答えがぽんと転がり落ちてくる。そういった濾過装置みたいなものが自分の中にあるんですね。
――それは昔からですか?
中村 選択ができるようになったのは最近です。若い頃は選べないじゃないですか。お金がないとか、時間がないとか、権利がないとか、選択すらできないことのほうが多かったので。だから、何でもやっていました。でも、何でもやる以上、どう自分の栄養素にできるかということは常に考えていましたね。
――劇中で「クイズプレイヤーはその回答に人生が出る」というセリフがありましたけど、俳優という仕事もそうだと思いますか?
中村 だと思います。特に舞台を見ていたらよくわかります。同業者だからというのもあるかもしれないですし、人によってはそんなことないと思うかもしれないですけど、僕はすごく出ると思いますね。まずこの面に生きざまが出ます。イヤですよね。でも、それでやっていくしかない。
――やる以上はすべて自分の栄養素にすると。
中村 ですね。仕事のことに関していえば、若い頃から「こんなにボーダレスでいろいろなことやっていいの?」というくらいいろいろなことをやってきたので、その経験はすごく血肉になっているなと思います。いいことも悪いことも含めて、どう噛み砕いて、自分の人生の道を舗装する材料に使えるか。結局はそこなんだろうなと思うんですよね。
いろいろなものの原価をよく考えています
――今現在、お芝居することって中村さんにとってはどういうものになっていますか?
中村 仕事ではあるんですけど、宝探しみたいな感覚はありますよね。20年やってきて、いろいろな経験値が身についてきている中で、さらによりよいものをやろうとすると、やっぱり自分の力だけでは及ばない範囲っていっぱいあって。もちろんできる限りの準備はします。ただ、作品が違えば関わる人たちやつくる環境は変わるし、同じ作品であっても日によって条件や状況は変わるので、どれだけ作用し合って、よりよいものができるかは自分ひとりではどうすることもできないわけです。いろいろな要素があるので、毎回宝探しのような気持ちで、今日いいものが見つかったらいいなと思って、現場に行っています。
――宝探しというのは面白いですね。
中村 具体的な何かというよりは、感覚ですけどね。僕だけ感じているパターンもあるし、僕が気づいてなくても現場にいる人が感じることもあると思います。作品づくりにおける地図みたいなものが台本で、これを軸に、それぞれのセクションが自分の仕事をしていくわけですけど、よりよくなったなという瞬間はたしかな感覚としてあるんですよね。それを言葉にするのは難しいし、誰かに説明するようなことでもないと思っているので、あくまでも自分にとっての楽しみです。いい1日だったと思えるギフトのようなものを見つけた気分になるというか。
――宝探しの最終的なゴールというのは何かイメージしているのですか?
中村 ないですね。役者の仕事は年を取ればやることは変わるので、そういう意味では面白がってもらえていたらいいかなと。スタッフから悪い評判が出なければいいなと思っています(笑)。どれだけいい能力を持っている人でも、人間としてダメだったら評判は悪くなるので。それは恥ずかしいことじゃないですか。役者としてどうこうよりも、人としてちゃんとしていたい、ということのほうがずっと大事ですよね。
――素晴らしいです!
中村 いやいや、もう散々ひねくれてきたのでね。今はたぶん真っすぐ伸びているんですけど、根元は2回転ぐらいねじれていますから(笑)。本当に根っから優しくていい人だったら、こうは思わない気がします。足りてない部分を自覚しているから、そう思っているじゃないですかね。
――クイズにかこつけるわけじゃないですけど、最近疑問に思っていることは何ですか?
中村 何だろう。原価率とか(笑)。いろいろなものの原価をよく考えていますね。あと、どうやればつくれるんだろうとかも。つくりや仕組み、成り立ちみたいなものにもともと興味があるんです。よくYouTubeで工場ができる過程のタイムラプスみたいなのを見ていますよ。何の説明もなく機械音だけする動画を見ながら、「ここはこういうふうになっているんだ」とか「これはこのための専門の機械なのね」とひとりでぶつぶつ言っています。
――それが息抜きになっているんですか?
中村 なっていますね。職人さんが手作業で何かをつくるのも好きです。カラスミができるまでとか、1本の包丁ができるまでとか、最近はレジンテーブルのつくり方を興味深く見ました。めっちゃ楽しいですよ(笑)。
1986年生まれ。東京都出身。数多くの映画やドラマ、舞台などで活躍。近年の主な出演作に、映画『ミッシング』『あの人が消えた』『ラストマイル』(すべて24年)、『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(25年/声の出演)、ドラマ「Shrinkー精神科医ヨワイー」(24年/NHK)、「DOPE 麻薬取締部特捜課」(25年/TBS)、「DREAM STAGE」(26年/TBS)、「ベストフレンドハウス」シリーズ(24年・26年/Prime Video)などがある。
『君のクイズ』
5月15日(金)全国ロードショー
原作:小川哲『君のクイズ』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督:吉野耕平
出演:中村倫也 神木隆之介 / ムロツヨシ
配給:東宝
賞金1000万円を賭けて戦う生放送クイズ番組「Q‐1グランプリ」の決勝戦。世間が注目する中、クイズ界の絶対王者・三島玲央(中村倫也)と世界を頭の中に保存した男・本庄絆(神木隆之介)はともに優勝まであと一問と、王手をかけた。そして迎えた最終問題、早押しクイズ。張り詰めた空気の中、本庄は問題が1文字も読まれないうちに回答ボタンを押す。会場がどよめく中、なんと正解を言い当て、本庄は優勝者となった。困惑を隠せない三島。不敵な笑みを浮かべる番組総合演出の坂田泰彦(ムロツヨシ)。どんなクイズであれ、問題文が0文字の状態で答えることは不可能なはず――。やらせ? 不正? それとも魔法? なぜ問題を1文字も聞かずに正解できたのか?
©2026映画『君のクイズ』製作委員会