2026.09.08
最終更新日:2026.09.08

次のジェームズ・ボンドは俺に決定!|リズ・アーメッド(1982年生まれ)【長谷川町蔵が勝手に選ぶ、世界のおじさん迷宮会】

『Bait(ベイト)』

『Bait(ベイト)』
© Amazon MGM Studios

リズ・アーメッド(1982年生まれ)
次のジェームズ・ボンドは俺に決定!

ダニエル・クレイグが卒業して以来、空位となっていた『007』の英国の敏腕スパイ、ジェームズ・ボンド役。その選考がようやく始まったようだ。これまで同様、白人俳優が有力視される一方、「多人種国家となった現在の英国を反映し、非白人俳優を起用すべき」との声も根強い。そんな中、自らボンド役に名乗り出ているのがパキスタン系英国人俳優リズ・アーメッドだ。

たしかに彼はイケメンだしスーツも似合う。だが彼のようなルーツをもつ俳優は、長らく映画の世界で「悪のテロリスト役」を押しつけられがちだった。こうしたステレオタイプを嫌うアーメッドはそうした役を断り続けた結果、一時は収入がほぼゼロに。それでも全財産を投じてロサンゼルスへの航空券を買ってオーディションに挑んだ『ナイトクローラー』でブレイクし、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも出演。ハリウッドにおける地位を確固たるものにした苦労人だ。

そんなアーメッド本人が企画・主演を務めたドラマシリーズが、『Bait(ベイト)』だ。同作で彼が演じるのは、ロンドンに住む“売れない俳優”。次期ジェームズ・ボンド役のオーディションという一生に一度のチャンスにありつくも、白人たちからは人種差別的な攻撃を受け、パキスタン系コミュニティからは「そんなに白人に迎合したいのか」と批判され、アイデンティティの危機に陥ってしまうブラック・コメディだ。劇中、アーメッドがボンドを演じるうえで懸念材料とされている「背の低さ(約174cm)」を、あえて自虐ネタとして執拗に繰り返すあたりには、スターの余裕すら感じさせる。だが、この『Bait(ベイト)』の配信先は、何を隠そう『007』の製作会社(MGM)を傘下にもつAmazon。ひょっとして「本物のボンド役は無理」と諦めたからこそ、こんなメタな設定のコメディ・ドラマを作ったのだろうか?

いや、アーメッド本人はまだまだ諦めていないようだ。本作のプロモーション中、「本当は誰がボンド役にふさわしいと思う?」と聞かれた際に、不敵にもこう答えているのだから。

「ボンド役は誰でもいいよ――僕でさえあれば」

『Bait(ベイト)』

監督/トム・ジョージほか
出演/リズ・アーメッド、グズ・カーン、シーバ・チャダー、アーシヤ・シャーほか

ロンドンに住む売れない俳優シャーは、自分が次期ジェームズ・ボンドの有力候補であるかのようにメディアをあおっていく。だがその結果、本人だけでなく家族やパキスタン系コミュニティがスパイ映画さながらの大混乱に陥っていき…。Prime Videoにて独占配信中。

長谷川町蔵

文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

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