2024.02.03

『レザボア・ドッグス デジタル・リマスター版』|1990年代の到来を告げた革命児、タランティーノによる映画ルネサンス【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

現在公開中の映画を、菊地成孔が読み解く。今回はクエンティン・タランティーノの監督第一作『レザボア・ドッグス』のリマスター版。

『レザボア・ドッグス デジタル・リマスタの画像_1

レザボア・ドッグスデジタル・リマスター版

監督・脚本/クエンティン・タランティーノ
出演/ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス
2024年1月5日より新宿ピカデリーほか全国公開

© 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

レザボア・ドッグス デジタル・リマスター版

宝石店襲撃を計画・実行したスゴ腕の6人。ところが強盗は失敗し、死傷者が出る。誰が警察に密告したのか? アジトとなる倉庫の密室で疑心暗鬼の対峙が始まった。クエンティン・タランティーノ衝撃の初監督作品。マドンナの曲について語りまくる冒頭から、言葉にできない余韻を残す幕切れまで、一瞬も見逃せない映画的気迫に満ちあふれている。


1990年代の到来を告げた革命児タランティーノによる映画ルネサンス

 1991年、タランティーノの監督第一作。久しぶりに見ましたがハッキリわかることがありました。戦後の20世紀は1950年代カルチャーが終わると’60年代カルチャーが始まり、’60年代が終わると’70年代というように、前の10年間をしっかり蹴散らして次のカルチャーがやってきた。『レザボア〜』はまさしく’90年代の到来を告げていた。『トップガン』や『愛と青春の旅だち』の’80年代は終わったのだと。


 2020年代の問題は、’90年代カルチャーが茫漠と続いていることなのではないか。カルチャーとして’90年代を劇的に否定するような新しい作品は登場していない。2020年代は、’70、’80、’90年代が全部あるような時代。さらには’50、’60年代も含めた混合型。この感覚が今の閉塞感と関係している気がする。『レザボア〜』を見直すと、やはりあのとき、’80年代が激烈に葬り去られワクワクしたのだな、と痛感します。


 タランティーノは10本撮って引退すると宣言しているが、10本というのは示唆的。本当は1年に1本ずつ作って’90年代というディケイドを終わらせるつもりだったのでは。


 あのときはウォン・カーウァイも脇にいて、革命の旗を振り、’90年代を牽引した。タランティーノが映画だけを作り続けてきたのは、作っても作っても2000年代カルチャーがやってこなかったからではないか?


『レザボア〜』はほぼ一幕劇。複数の主人公の長台詞と会話を聴いているだけでドキドキする。それはタランティーノが劇作家だから。今でもCGを使わず、フィルムの感触にこだわる。昔ながらの手法で時代を変えた人。そして選曲センスのよさが際立つ。台詞と俳優の動きの迫力だけで斬新なものを見せた。


 もう巨匠なのだから90歳までだって撮れるはず。しかし30年以上「’90年代」をやり続けたものの、その間に起こるはずの3回の革命が一度も起きなかったことへの疲労がきっとある。


 今のところ最後の革命家。昨日生まれた人が見ても『レザボア〜』は面白い。水も漏らさぬ脚本に飛躍とシャッフルのフラッシュバック。実はこれ、映画メディアがもともと有しているもの。それをポップにやり直したルネサンス。再公開に刺激され、明るくパワーのあるクリエイターが革命を起こすことに期待しています。(談)


菊地成孔
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi



Text:Toji Aida

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