歴史と空想を大胆に織り交ぜた
珠玉の人間ドラマともうひとつの60年代の終焉

リック・ダルトンは人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身の道を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブースは、彼に雇われた付き人でありスタントマンであり、親友だ。目まぐるしく変化するハリウッドで生き抜くことに精神をすり減らしているリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。完璧な友情で結ばれた二人だったが、時代は大きな転換期を迎えようとしていた。そんなある日、リックの隣の家に、時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート夫妻が引っ越してくる。リック、クリフに対して、今まさに最高の輝きを放つカップル。そんななか、リックは再び俳優としての復活を求め、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演することを決めるが…。

舞台は1969年のアメリカ、ハリウッド。夢が詰まった華やかな映画業界と、全盛を迎えたヒッピーカルチャー、そしてこの年に起きた衝撃的な事件を内包した光と影がちらつく時代だ。そんなごった煮とも言える時分に生きる“ハリウッド人”を描いたタランティーノ的昔話だ。物語の至るところに、この街が持つ明暗のような相反する2つの顔をちりばめ、互いが惹かれ合いドラマチックな化学反応を起こしている。

リックは40歳男子の等身大を描いているようで、誰でも老いとともに感じる、過去の栄光と未来への向上心の間にある焦りを見せる。時代の波に押し流されそうになっても必死にもがく。一方クリフは、そんな焦りも持たず多くを望まず、今の自分が手に入れられる幸せを噛みしめ満足する、いわば男性がなりたくてもなかなかなれない憧れのキャラクターだ。ビジネスパートナーを超えた友情と絆を育んだ二人は、時に少年のように無邪気で、時にアダルトでドライな距離感を見せる。気丈さの裏に弱さをのぞかせる人間味溢れるリックをレオナルド・ディカプリオが情感豊かに演じ、淡々と自分の価値観と信条に従って生きる相棒クリフをブラッド・ピットがクールに扮する。40歳男子はこの2人が一緒に笑って泣いて抗う姿を見るだけでやや興奮気味に!

また、落ち目俳優リックの隣には、勢いに乗った若かりし名匠ロマン・ポランスキーと女優の妻シャロン・テートが住み、邸宅までの上り坂を愛車で豪快に上っていく。リックとクリフは、緩やかな坂の途中にある自宅まで車を豪快に走らせる。時代が付いてくる側と時代を追いかける側。上り続ける者と行き止まる者。そんな対比を触媒に史実とフィクションを融合させた、ユーモラスでデンジャラスなストーリーに仕上がっている。1969年を知ってるからこそ楽しめてヒヤヒヤできる、我々大人にとって最高のエンタメ作品である。


『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、アル・パチーノ
2019年8月30日より全国公開
© 2019 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi

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