時計は、時間を知るための道具。でも、時間の価値は数字だけでは測れない。大切な人と過ごすひととき、何かに夢中になる時間、あるいは何もしない贅沢。そんな「時」の豊かさを改めて考えさせてくれるイベントが、ニューヨークで開催された。
2026年10月6日、セイコーグループが現地のPace Galleryで開催した「THE GIFT OF TIME」。日本ならではの時間に対する美意識を世界に伝えるグローバルプロジェクトの一環で、今回のテーマは「間(MA)」。隈研吾がデザインした茶室をはじめ、時計や工芸、建築などを通じて、時間を味わう特別な体験が用意された。
忙しいニューヨークに、日本の「間」を贈る
世界有数の大都市であり、「眠らない街」とも呼ばれるニューヨーク。絶えず動き続けるこの街に、セイコーが届けたのは、あえて立ち止まるための時間だった。
日本語の「間」には、空間や余白、物事と物事のあいだに生まれるひとときなど、さまざまな意味がある。何もないようでいて、そこには新しい発見や可能性が潜んでいる。そんな日本独自の感覚を、展示や体験を通じて伝えようという試みだ。
そもそも「THE GIFT OF TIME」は、140年以上にわたり時計づくりに携わってきたセイコーグループが、時間を単に計測するものではなく、人生を豊かにするかけがえのないものとして捉え、その価値を世界に発信するプロジェクト。
2024年には、建築家の隈研吾、現代美術作家の杉本博司、作曲家の都倉俊一、歌手のMISIAらが出演するショートフィルムを公開。2025年にはパリのリッツ・パリでもイベントを開催するなど、時計という枠を超えて、日本の文化や美意識を紹介する活動を続けている。
時計をつくることで時間と向き合ってきたセイコーグループが、今度は文化や芸術を通じて「時」の価値を伝えていく。ニューヨークでのイベントは、そんな取り組みを象徴するものだ。
名作時計から茶室まで。「時」を巡る3つの展示
今回の会場では、「History(歴史)」「Culture(文化)」「Space(空間)」という3つのテーマで、セイコーが考える時間の豊かさを表現した。
「History」では、創業者・服部金太郎の理念やセイコーの歩みを紹介。初代グランドセイコーをはじめ、複雑機構を備えたコンスタントフォース・トゥールビヨン「Kodo」、クレドールの「Locomotive」や「叡智Ⅱ」など、日本の時計づくりを象徴するモデルが並んだ。
一方、「Culture」では、銀座の和光がセレクトした美術工芸作品を展示。時計だけでなく、日本の職人が受け継いできた技や美意識にも光を当てた。
そして「Space」の中心となったのが、建築家・隈研吾が「時間」をテーマにデザインした茶室だ。
会場の6階テラスに設けられた茶室では、裏千家准教授の山崎宗有氏による茶会を開催。ニューヨークの摩天楼を背景に、静かにお茶を味わうという、都市の喧騒とは対照的な時間が生まれた。
さらに、隈氏が設計した岩手県の時計工房「グランドセイコースタジオ 雫石」の建築模型も展示。建築と時計づくりに共通する、自然や時間との向き合い方を紹介した。
時計をつくるセイコーが、時間の使い方を問いかける
会場ではショートフィルム「THE GIFT OF TIME -時と生きる-」も上映されたほか、ニューヨークで活躍するシェフの大堂浩樹氏や、バー「Martiny's」のバーテンダー渡邉琢磨氏による特別なフード&ドリンクも提供。視覚だけでなく、味覚や香りも含めて、日本のおもてなしの精神を伝えた。
また、イベントに合わせて、グランドセイコー フラッグシップブティック ニューヨークでは、クレドールの限定ポップアップも開催。復刻版「Locomotive」や「ゴールドフェザー」「叡智Ⅱ」などを通じて、日本の時計づくりの魅力を紹介している。
時間を正確に刻む技術を磨いてきたセイコーが、いま世界に向けて発信しているのは、その時間をどう過ごすかという問いだ。
スマートフォンを開けば、いつでも正確な時刻がわかる時代。だからこそ、時計を着けることや、何気ないひとときを大切にすることには、数字では表せない価値があるのかもしれない。
慌ただしい毎日のなかで、ほんの少し立ち止まってみる。ニューヨークで披露された「THE GIFT OF TIME」は、そんな時間の楽しみ方を改めて教えてくれる。