ブランドの哲学やデザイナーの美学に耳を傾け、磨かれ続けるディテールに目を配ることで、メゾンの黒いレザーはより美しく、緊張感が宿り、手にする喜びをもたらしてくれる。新しい黒がどう生まれたのか。バッグや靴、小物を通して、メゾンの現在地を読み解いてみる。
HERMÈS
バッグの技術を映した、職人の手仕事が際立つロングウォレット。その精緻な仕立ても魅力の一つ。
Hモチーフのパンチングとサイドジップが、手元に存在感と品格を添え、シンプルな装いに際立つ。
変わる時代に際立つ、変わらない美学
メンズ部門のアーティスティックディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンが、37年の歩みに区切りをつけた。1988年から長きにわたりエルメスのメンズを導いてきた氏の最後の2026年秋冬コレクションは、過去のアーカイブより10型が取り入れられ、ブランドが貫くタイムレスな哲学を象徴。今季登場したレザーグッズにも、エルメスらしい思想と品格、その精神が受け継がれている。
ロングウォレットは、ウィメンズのバッグ「ピアノ」を着想源とした新ライン。アイコニックな二つのクラスプや、鍵盤を思わせるフラップのカッティングを継承しながら、マチはすべて手縫いで仕上げられている。付け根まで緻密に成形されたフラップは、本体に吸いつくように閉じ、バッグから財布へとスケールを変えても、エルメスならではの造形美を損なわない。一方のグローブは、しなやかなラムレザー「アニョー・グラッセ」にHモチーフのパンチングを施した。シルクライニングによる滑らかなつけ心地に加え、サイドジップを備えることで着脱性も高めている。ロゴを誇張するのではなく、機能と意匠を一体化させることで、ブランドの美意識を手元に宿しているのだ。