現在、プライムビデオで独占配信中の『犯罪者』は、『相棒』シリーズの脚本などで知られる太田愛さんの原作小説を、『エゴイスト』の松永大司監督が実写化したド級のクライム・ミステリー。大きな発見と学びがあったという本作について話を聞いた。
素の部分をいかにオンにつなげるか
――冒頭の無差別刺傷事件から一気に引き込まれました。本作で斎藤さんは、旧知の刑事・相馬(高橋一生)と、無差別刺傷事件の唯一の生存者である修司(水上恒司)と行動をともにしながら事件を追うフリーライターの鑓水を演じています。どのように役を捉え、つくり上げていきましたか?
斎藤 自分が鑓水を演じると知ったときは、とても興味深かったし、やりがいを感じました。というのも、鑓水はどこか道化的なポジションであり、3人の中ではいちばんフレキシブルに動くので、おそらく見ている人にとって近しい何かを感じてもらえるような、そういう魅力があるキャラクターだなと思ったんです。2人ではなくて、3人であることが意味のある物語でもありますし、だからこそなおのこと、鑓水の役回りといったものを自分なりに考えて撮影に臨んだのですが、松永(大司)監督がいい意味で覆してくださって。
――そうなんですか?
斎藤 はい。それこそUOMOさんにはいろいろな俳優さんが登場されていると思いますが、普段の姿のほうが魅力的だなと思ったことはないですか?
――あります。普段の物腰や立ち居振る舞いが素敵だなって思うことはよくあります。
斎藤 そうなんですよね。例えば、発声とかがわかりやすいですけど、お芝居になると、それ用の発声になってしまって、普段とは違って野太い声になったりするんです。でも、松永監督は僕たちの普段の声のトーンがいいとおっしゃって、リハーサルではその調整を出演者みんなで何度も繰り返しました。自分なりにどう演じるかを考えて現場に向かったのですが、ドキュメンタリー作品も手がけられている松永監督の現場は、オフの部分、言ってしまえば素の部分をいかにオンにつなげるかという作業で、今までの自分のやり方とは違うアプローチだったから、かなり衝撃を受けました。フィクションとドキュメンタリーの融合みたいな演出の仕方は、一生さんも、水上くんも、革新的だって言っていましたね。でも、すごく理解できたんです。本来の自分と地続きのまま演じることで、自分だけの役になっていることを実感できたというか、本当に今までの考え方ががらっと変わるような体験でした。
今後の表現にも確実に影響を及ぼす
――数々の作品に出演し、キャリアもある俳優さんがみなさん口を揃えて革新的と言うのはすごいことですよね。
斎藤 そうなんですよ。撮影のときも、一応押さえで撮っておいて、編集の段階で使うかどうか決めたりすればいいんですけど、監督はそれをしないんです。何か足すというよりは、せりふも含めて説明過多な部分を取り除いていくことのほうが多かったですね。なので、せりふに頼って現場に臨むと、それはもうまったく通用しない。撮影中はある種の緊張感というか、生もの感というのは常にありましたし、今回の経験はいろいろな場面で今も生きているなって思います。まず自分の声のトーンというものを日常の場面においても意識するようになりましたね。他者が聞いたらわからないような部分でも、何をどう伝えたいかで、明確にトーンが違うことが自分の中で掴めたのはすごくよかったです。
――本当に素晴らしい体験だったんですね。
斎藤 それも流れがあったんだなと思っていて。去年、東京国際映画祭のコンペティション部門の審査員をやらせていただいたんですけど、そのときの審査委員長だったカルロ・シャトリアンが「演技がどこから始まっているかを見ている」というようなことをおっしゃっていて、その言葉が心の中にずっと残っていたんです。審査作品の中には、どうしても「よーい、スタート」からの演技に見えてしまうものがあって、それに対して正直「うーん…」となっていた自分がいて、その流れでこの『犯罪者』の現場に入ったので、なおさら深く納得できたというのはあります。今後の表現にも確実に影響を及ぼすと思いますね。
いろいろな形で作品づくりに関わっていきたい
――斎藤さんは、俳優のほかに、映画監督やプロデューサーとしても活動されています。最近だと、俳優の永尾柚乃さんが監督、主演、脚本、編集を務める『LITA』(2027年公開予定)のプロデュースを手がけることも話題になりました。それぞれの使命や展望についてどのように考えていますか?
斎藤 そうですね。現在9歳の永尾さんが3歳から脚本を書かれていることは何となく聞いていて、去年たまたま共演した折に、その台本を見せていただく機会があったんです。当時の台本には『利他の心』と書かれていて、利他の心を失った地球人のせいで生態系がおかしくなり、その影響で滅亡の危機に瀕したほかの惑星が地球を破壊するかどうか話し合うところから始まるのですが、地球を破壊する前に1人の人間をモニタリングして、その人物が他者とどう関わっているかをチェックし、もし利己的な人間だったらミサイルのボタンを押すというストーリーでした。
――すごいですね!
斎藤 すごいです。地球人という括りで物事を捉えていることもそうですし、小学生という設定にした理由も素晴らしくて。モニタリングされる人物は小学2年生のリタちゃんという女の子で永尾さんが演じるのですが、永尾さんには同じように子役と呼ばれる仲間がいて、その子たちがみんな仕事に恵まれているかといったらそんなことはなく、出来るかぎりみんなに仕事のチャンスをつくる意味でもこの設定にしたそうです。その話を聞いたときに、こういったクリエイティブを純度高く邪魔せずに形にすること、あるいは風除けになることが自分の役割のひとつなのかなと強く思いました。
――とても大事な役割だと思います。
斎藤 作品が生まれるゼロイチの純度をいかに高く形にするか、そしてそれを多くの人にどう届けていくか。その部分が僕にできることなのかなと。名ばかりのプロデューサーになるつもりはないですし、自分のやり方がこれで正しいのかということを常に疑いながらクリエイティブファーストでさまざまなプロジェクトに関わっていきたいなと思っています。以前、福永壮志さんの監督デビュー作『リベリアの白い血』(15年)を観て、ものすごく感銘を受けたことがあったんです。彼が次の作品を撮るときは何かしら手伝いたいと思って、2作目の『AINU MOSIR』(20年)のときは自分のできる範囲で勝手に応援していたんですね。そうしたらたぶん気を使ってか、僕の役を用意してくれて。ただ、映画は実際のアイヌの方たちが出演し、現代のアイヌのリアルな姿を描く内容で、ほぼドキュメンタリーなんですよ。リリー・フランキーさんと三浦透子さんは出演されていますが、お二人は作品世界に違和感なく佇める方たちだからまったく問題ないんです。でも、僕が登場するとおそらくコマーシャル的な存在として入ってしまって作品を壊してしまうことは明らかだったので、監督にそのままお伝えして、スチールカメラマンとして現場に入らせてもらいました。結果的にその関わり方は間違いではなかったと思っていて、自分にできることがあるかぎり、これからもいろいろな形で作品づくりに関わっていけたらいいなと思っています。
1981年生まれ。東京都出身。主な出演作に『シン・ウルトラマン』(22年)、『マジカル・シークレット・ツアー』(26年)、『キングダム 魂の決戦』(26年)、Netflix『新幹線大爆破』(25年)、『This is I』(26年)、ドラマにNetflix「極悪女王」(24年)、「誘拐の日」(25年/テレビ朝日)などがある。待機作に『存在のすべてを』(27年公開予定)など。初長編監督作『blank13』(18年)は国内外の映画祭で8冠を獲得。企画・プロデューサーを務めたドキュメンタリー映画『大きな家』(24年)は、第34回日本批評家大賞ドキュメンタリー賞を受賞。永尾柚乃初監督作品『LITA』(27年公開予定)でもプロデュースを務める。また、全国の被災地等での移動映画館「Cinéma Bird」主宰、「Mini Theater Park」、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
『犯罪者』
プライムビデオで世界独占配信中
キャスト:高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか
原作:太田 愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
監督:松永大司
脚本:櫻井武晴
制作:PROTX
白昼の駅前で起きた無差別殺傷事件。ただひとり生き延びた繁藤修司(水上恒司)は、再び命を狙われる。事件に疑問を抱く刑事・相馬亮介(高橋一生)は、独自の取材を続けるフリーライター・鑓水七雄(斎藤工)とともに、それぞれの立場から事件を追う中で、巨大な真実へとたどり着いていく。大手食品メーカー・タイタスフーズをめぐる疑惑、乳幼児を襲う奇病の存在、そして政界との癒着によって歪められてきた真実。なぜ事件は起きたのか? なぜ真実は隠されるのか? 正義とは何か? ひとつの無差別殺傷事件をきっかけに交錯した3人の運命は、理不尽な現実に翻弄されながらも、やがて日本社会の大きく深い闇へとつながっていく――。
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