気鋭の文芸評論家が考察する、現代日本のパートナーシップ論が話題になっている。共働き世帯も増える中、夫婦が忙しい日々にからめとられず、お互いを理解するには?
村上春樹作品には、夫婦関係の悩みが詰まっている
パートナーとのディスコミュニケーションに直面する男性は少なくない。昭和から令和にヒットした小説、ドラマ、映画を例にしながら、その在り方について考察した『「夫婦」不在社会』を執筆した三宅さん。「日本のエンタメ作品は、パートナーシップを描いたものが少ない」と感じたのが執筆のきっかけだった。本著で特に多く論じているのは、村上春樹の小説作品だ。『羊をめぐる冒険』『カンガルー日和』『ねじまき鳥クロニクル』、短編の「ドライブ・マイ・カー」…。40歳男子にも馴染みのある作品が次々と登場する。そこで読み解かれるのは、“私的で親密な相手との関係構築に悩む人たち”の姿だ。
「実は村上作品って、夫だけでなく妻の視点からもパートナーシップへの葛藤が多く描かれています。夫婦は簡単に割り切れない関係ですし、悩んで当たり前だと思うんです。だけど大人になると家庭の話ってしづらいことも多いですよね。物語なら『悩んでいたのは自分だけじゃなかった』と認知しやすい。これぞ小説のもつ力ではないでしょうか」
また本著の中で描かれるのは「時間をかけて、人間関係をつくっていくことの大切さ」。
「夫婦間での対話は大事ですが、それはプレゼンして即解決というような、仕事みたいな方法ではないのではと。最近、友人とやっていたセットログというサービスを、夫ともやりとりするようになったんです。1時間に2秒だけ動画を送り合うSNSですが、食事や風景を共有するだけのゆるさが心地よい。忙しい共働き夫婦が増えていますが、私的な関係を深めるには時間をかけることが必要。今回の本の感想を伝え合うでもいいですし。相手を“永遠の謎”と思いながら、すぐにわかることをゴールとしないほうが、楽しいのではと思いますね」
1994年高知県生まれ。京都市立芸術大学非常勤講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。2017年、大学院生時代に『人生を狂わす名著50』を刊行しデビュー。’24年に発表した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が「新書大賞2025」大賞を受賞しロングセラーに。近著に『推したちとどう生きるか』がある。