2026.07.10
最終更新日:2026.07.10

【ピート・ヘイン・イーク インタビュー】「不完全だからこそ、美しい」。今改めて彼の哲学に惹かれる理由【PIET HEIN EEK】

スクラップウッドを用いた家具で世界的に知られるオランダ人プロダクトデザイナー、ピート・ヘイン・イークが来日。CIBONEで開催中のエキシビションに合わせて話を聞いた。1980年代から廃材と向き合い続け、素材に宿る時間や人の手の痕跡を家具へと落とし込んできた彼の仕事は、ヴィンテージやクラフトへの関心が高まる今、改めて多くの人の共感を集めている。

長く愛されるプロダクトを目指して

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——ヴィンテージやクラフトへの関心が高まる今、改めて作品に惹かれる人が増えているように感じます。その理由をご自身ではどう考えていますか。

30年ほど前、デザイナーが一点物の作品をアートとして発表する流れがありました。もちろんそれも一つの表現ですが、私は昔から少し違う考え方でした。私がやりたかったのは、高価な一点物をつくることではありません。少量生産であっても、本当にいい椅子や家具をつくり、それがプロダクトとして長く生き続けることです。当時よく冗談で、「30年後を見れば答えがわかる」と話していました。一点物だから価値がある作品なのか、それとも何十年もつくられ続けるプロダクトなのか。その違いは、時間が教えてくれると思っていたんです。実際、卒業制作で発表した1989年の家具はいまもコレクションに残っています。それどころか、30年前より売れているものもあります。私が大切にしてきたのは、一時的な話題ではなく、長く生き続けるブランドやプロダクトを育てることなんです。

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1989年、デザイン・アカデミー・アイントホーフェンの卒業制作として発表されたキャビネット。

——効率や完成度が求められる時代だからこそ、「不完全さ」に価値を見出す考え方が、とても新鮮に感じられます。

その考え方は、実は産業革命以降の歴史とも関係しています。それ以前は、家具はすべて職人が手でつくっていました。同じものをつくろうとしても、一つひとつ微妙に違います。それが当たり前でした。ところが工業化によって、まったく同じものを、何度でも完璧につくれるようになった。当時はそれが新しく、美しいことだったのです。でも、いまは違います。完璧なものはいくらでもつくれる時代です。だからこそ、人は少し歪んでいたり、わずかに違っていたりするものに魅力を感じるようになったのだと思います。手で一本の直線を引くと、どんなに上手な職人でも、機械のようにはなりません。でも私は、その線のほうがずっと美しいと思うんです。そこには、その人が生きた時間や技術、人間らしさが表れているからです。だから私は、不完全さを評価しているというより、人間らしさに価値を感じているのかもしれません。

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今回のエキシビションのために日本の生活様式に合わせて作られたキャビネット。

ものづくりは、変わり続けることで受け継がれる

——今回の展示では、建築家・長坂常さんとのトークイベントも開催されました。お二人とも固定観念にとらわれないものづくりをされている印象を受けましたが、同じクリエイターとしてどのような共通点を感じましたか。

長坂さんとの対談は、とても楽しい時間でした。私たちに共通しているのは、素材や職人、そして機械そのものへの敬意です。素材を尊重し、職人の仕事を理解し、機械の特性も理解する。そのうえで、それぞれにとって最も自然なつくり方を考える。それが私たちのものづくりの出発点なんです。一方で、伝統には常に「慣習」があります。昔は正しかったつくり方でも、時代が変われば、そのままでは成立しなくなることがあります。例えば、人件費が上がれば、以前と同じ工程では価格が合わなくなる。だからこそ、伝統を残したいのであれば、むしろ変えなければならない。素材への敬意は変えずに、方法だけを更新していく。その考え方は、長坂さんとも共有できたと思います。

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長坂氏とのトークショーの様子(Photo:Kaori Umezawa)

——日本のものづくりや、日本ならではの価値観から刺激を受けたことがあれば教えてください。

実は私の仕事は、日本で最初に紹介されたんです。2005年に初めて来日して以来、日本とは長い付き合いになりますが、私の考え方を理解してくださる方が多いと感じています。初来日のときには、手づくりの木製品をプレゼントしていただきました。同じ用途のものでも工業製品のほうが安く買えるのに、「こちらのほうがいいものだから」と。その出来事が、とても印象に残っています。日本には、手仕事に価値を感じ、そのためにお金を払おうという文化があります。それはヨーロッパよりもずっと強いと感じました。その後、一緒に家具をつくるプロジェクトで工場を訪れたときも驚かされました。工場の方が、「この木は捨てる」「これは残して使う」と一本ずつ丁寧に選別していたんです。ヨーロッパでは、そのまま廃棄されてしまうことも少なくありません。でも日本では、残った素材にも価値を見出そうとする。その姿勢にとても共感しました。私自身も木を見れば、「これは何かになる」と考えてしまいます。森を見ても、美しい景色としてだけではなく、「この木からどんなものが生まれるだろう」と想像するんです。その感覚は、日本の素材に対する考え方と、とても近いものがあると思っています。

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人が集まる場所をデザインする

——今回の展示全体をご覧になって、どのような印象を持たれましたか。作原文子さんによる空間スタイリングについてもお聞かせください。

今回の展示では、一つの素材や代表作に絞るのではなく、1989年の初期作品から現在まで、私の仕事全体を一つの流れとして見せてくれています。それは私自身がずっと望んでいた見せ方でもあります。作原さんのスタイリングも、とても印象的でした。ギャラリーではなく、まるで誰かの家にいるような空間になっている。その空気感がとても心地よかったですね。家具は、それだけで完成するものではありません。人が暮らし、本や器が置かれ、時間が積み重なることで初めて、その家具らしくなっていく。今回の展示は、そのことを自然に感じられる空間になっていると思います。

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——ご自身も若い頃と比べて、ものとの付き合い方や消費に対する考え方は変わりましたか。

私は昔から、あまり「所有したい」という気持ちが強い人間ではありません。むしろ、つくることのほうが好きなんです。完成したら、それで満足してしまう。自分の作品をたくさん持ちたいとはあまり思いません。若い頃は、今より多少そういう気持ちもありましたが、年齢を重ねるにつれて、ますますモノそのものへの執着はなくなってきました。それよりも、人のほうがずっと大切です。例えばテーブルも、私にとって重要なのはテーブルというプロダクトではありません。そこに人が集まり、一緒に食事をし、お酒を飲み、会話をする。その時間こそが価値なんです。だから私は、家具をつくっているというより、人が集まるきっかけをつくっている感覚なのかもしれません。最近はスタジオの敷地も少しずつ広げていますが、それも大きな建物を持ちたかったからではありません。ものづくりをする人が集まり、一緒に過ごせる場所をつくりたかった。ゲストが泊まり、食事をし、クリエイター同士が自然に交流できる。私にとって一番大切なのは、その"屋根の下で生まれるコミュニティ"なんです。プロダクトよりも、人。家具よりも、その家具を囲む時間。年齢を重ねるにつれ、私の関心はますますそこへ向かっています。

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スタイリスト作原氏と。
デザイナー
ピート・ヘイン・イーク

オランダ生まれのプロダクトデザイナー。廃材や工場廃棄物など、使い古された素材に着目し、素材の持つ個性や不完全さを生かした家具やインテリアを手がける。代表作の「スクラップウッド」シリーズをはじめ、クラフトの温かみと力強さを兼ね備えた作品で国際的に評価されている。

Instagram:@piet_hein_eek

with the maximum respect for the materials
PIET HEIN EEK

会期:2026年7⽉19⽇(⽇)まで
時間:11:00〜20:00
場所:CIBONE(東京都渋⾕区神宮前 5-10-1 GYRE B1F)

PIET HEIN EEK:https://pietheineek.nl/

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