現在公開中の映画を、菊地成孔が読み解く。
『ディスクロージャー・デイ』
映画界のジョブズ、スピルバーグが贈る
純粋娯楽漫画映画、その不動の面白さ
『シンドラーのリスト』で決定的になりましたが、スピルバーグは真面目な社会派と、往年の娯楽映画に回帰する漫画派、二つの路線を行ったり来たりしている。年をとって文芸ものばかりになるのではなく、『レディ・プレイヤー1』も平然と作る。自伝風の前作『フェイブルマンズ』は真面目な映画だった。今度は『未知との遭遇』『E.T.』の後日談とも言うべき『ディスクロージャー・デイ』の登場。このあたりには持ち芸の意識もあるのではないか。いずれにしても、マイペースを守っている。見た目も50代から変わっておらず、ある意味、不老不死。あと10年はこのリズムで続けられるのではないか。
どう映画を作ればいいかわかっている。大統領が誰になろうと、どんなに世の中が変わろうとも、世界情勢とは関係なく製作のペースを保てる。それこそが完全なセレブ。同時代を切り開いたコッポラやルーカスが、監督としての調子を崩していったのとは対照的。しかも今回は『フェイブルマンズ』のラストに俳優として登場、ジョン・フォードを演じたデヴィッド・リンチ(同い年)の映像を思わせる場面もあり、後続の人気監督クリストファー・ノーランへの意識も感じるなど、さすがのシネフィルぶり。
ある真実を暴く側と、暴かせない側の闘い。そこに国家もホワイトハウスも絡んでいない。つまりヒエラルキーがない。賢者の石を駆使したバトルが展開しますが、これ聖剣と邪剣みたいなもので、言ってみればサイキック合戦。日本なら光の忍者vs.闇の忍者、『スター・ウォーズ』ならジェダイ対帝国軍です。娯楽の骨法を知るスピルバーグは、サイレント映画を思わせる場面など、一つ一つの芸でとにかく面白く見せる。そして、『未知との遭遇』から一貫して流れる「宇宙人は敵ではない。私たち地球人は宇宙でひとりぼっちじゃない」というリベラリズムが貫かれる。
まさに昭和の少年漫画。作品も風貌も、マイペースを守って健康体。そのありようはヒッピーも思わせる。世界の覇権を握ったヒッピーという意味では、スティーブ・ジョブズと双璧。クオリティは落ちていないし、まだまだやる気満々。今年12月、80歳。さすがのイーストウッドもペースが乱れた80代をどのように迎えるのか。非常に楽しみです。(談)
『ディスクロージャー・デイ』
監督/スティーヴン・スピルバーグ
出演/エミリー・ブラント、ジョシュ・オコナー
10月1日より全国公開
自らの原案によるスティーヴン・スピルバーグ監督の最新作。クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』の主人公の妻役、エミリー・ブラントを主演に招き、ある地方局のキャスターたちがキャッチした「都市伝説の真相」を大胆不敵なかたちでスクープするまでを活写する。音楽は、スピルバーグ映画の代名詞であるジョン・ウィリアムズ、94歳!
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi
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