2026.09.23
最終更新日:2026.09.23

『ドラマなふたり』|魅力的な恋人のトラウマにご用心!? 21世紀エンタメの扉が新たに開いたかも【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

現在公開中の映画を、菊地成孔が読み解く。

『ドラマなふたり』

『ドラマなふたり』
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魅力的な恋人のトラウマにご用心!?
21世紀エンタメの扉が新たに開いたかも

アリ・アスターのプロデュースでクリストファー・ボルグリが監督。ニコラス・ケイジ主演『ドリーム・シナリオ』の座組。文句も言いたくなった前作より全然いい。好きな映画ではありませんが「頑張れよ!」という気にもなる。ゼンデイヤ主演で全米で大ヒットしている。

いわゆるマリッジブルーコメディで、救いはあって泣ける人は泣ける。ただ、もう少し短くてもいいかも。しかしワンカットはTikTokくらい短い。クライマックスも結論も短い。そこは現代的。が本編は長いというアンバランスさ。

ボルグリはノルウェー出身だから当然ですが、アスターはニューヨーク出身なのに、これまでの監督作もアメリカに対する当事者性がない。マーティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』がイギリス人だから撮れたアメリカであったように、これもアメリカ人には撮れないマリッジブルーコメディ。女性の魅力の総体が、とんでもないトラウマによって出来上がっていたことがわかったらどうする?という21世紀の娯楽への問題提起なのです。

最近のアメリカ映画はとにかく真面目で、コメディならもっと笑えてハートフルに許し合うだろうし傷も回復する。逆にトラウマに目を向けるとドス黒く闇堕ちしてしまう。極端すぎる。なので、アメリカの問題を描けるのはアメリカ人以外なのかもしれません。

映画には北欧的な意地の悪さがあって、そこまでやらなくても…と思わなくもないのですが、これはどの国でもリメイクできる久しぶりに汎用性のある企画。同じ北欧でもラース・フォン・トリアーのような鬱性はなくエンタメの可能性を拡張しようとする意気を感じます。

魅力的な人には実は傷があるのでは? これまで開けられていなかったエンタメの扉が開いたかもしれません。強い女にはトラウマがあって、弱く情けない男はいたって普通。従来のエンタメ登場男性平均に比べると心のタフさも行動の強さも随分低いのですが、これがSNS時代のリアルかも。サブキャラの善人が善行を発揮できない展開も皮肉がきいています。

フルート3本による劇伴もよく、選曲も『ドリーム・シナリオ』より格段に向上。従来のラブコメの甘さが欲しくはなりますが、文化的に価値ある一本だと思います。(談)

『ドラマなふたり』

監督・脚本/クリストファー・ボルグリ
出演/ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン 
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

「これまでにしでかした最悪のエピソードは?」。そんな友人同士による無邪気な告白大会が、結婚式を目前に控えたカップルを地獄の数日間に連れていく。そして迎えたウェディングパーティの行方は? 大人気ゼンデイヤとロバート・パティンソンの顔合わせで贈る『ドリーム・シナリオ』チームの新作。ヒロインのトラウマが周囲の人々も巻き込んで大変なことになる。

菊地成孔

音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi
本連載をまとめた書籍『クチから出まかせ 菊地成孔のディープリラックス映画批評』が好評発売中。

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