2026.10.20
最終更新日:2026.10.20

【パブロ・ピカソ】誰もが知る巨匠の「すごさ」を説明できますか?【明日話したくなるアートの小噺/筧菜奈子】

誰もが知る巨匠の「すごさ」を説明できますか?

パブロ・ピカソ イラスト

パブロ・ピカソ(1881~1973)。スペイン出身の芸術家である。その名前を知らない人はいないだろう。だが、「彼の何がそんなにすごいのか?」と聞かれて、過不足なく説明できる人は意外と少ないのではないか。今回は巨匠の真骨頂を、二つの視点からひもといてみたい。

一つ目は、見ているものの裏側まで一枚の絵に閉じ込めたことだ。私たちがサイコロを見るとき、視界に入っているのは常にいくつかの面に過ぎない。裏側にどの目があるかは頭でわかっていても、目はとらえていないのだ。ピカソはこの視覚の限界に挑んだ。一見すると横顔に見える女性の瞳が、正面を見据えるように描かれている不可解な構図。これは、さまざまな角度から見た彼女の姿を一度に認識させようとする、視覚の実験なのだ。表面的な写実を超え、絵画だからこそ到達できる、その人の真の姿を描き出そうとしたのである。

二つ目は、形をぎりぎりまで単純化することで、絵のもつパワーを爆発させたことだ。緻密に描き込まれた古典的な絵画は、近くに寄らなければその美を味わい尽くせない。しかしピカソの作品は、遠く離れた場所からでもひと目で心を射抜く強烈なインパクトを放つ。形態をシンプルに削ぎ落とすことで、画面全体のエネルギーを最大化させたのだ。発表当時はその先進性ゆえに「醜い」と叩かれもしたが、その後の美術史を見れば、彼がいかに偉大な一歩を踏み出していたかは明らかだろう。

こうした絵画の革命から1世紀がたち、その作品の力はいまなお拡張し続けている。それを全身で体感できるのが、現在開催中の「ピカソmeets ポール・スミス」展(~9月21日)だ。静謐な白いギャラリーに作品をただ並べるのではなく、絵の中の模様が壁面へ飛び出たようにつけられたり、足元にカーペットや人工芝が敷き詰められたりするなど、さまざまな仕掛けが施されている。ポール・スミスの軽妙な感性によって、ピカソの芸術がいかに絵画を飛び越えるパワーをもっているかが可視化されているのだ。会場に一歩足を踏み入れれば、時代を超えて響き合う圧倒的な表現の力に魅了されるはずだ。

筧 菜奈子

東海大学教養学部芸術学科准教授。専門は現代美術史、装飾史。研究のほか、イラストやデザインなどでも幅広く活躍中。近著に『いとをかしき20世紀美術』(亜紀書房)ほか。

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