レザボア・ドッグス
デジタル・リマスター版

監督・脚本/クエンティン・タランティーノ
出演/ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス
2024年1月5日より新宿ピカデリーほか全国公開

© 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

レザボア・ドッグス デジタル・リマスター版

宝石店襲撃を計画・実行したスゴ腕の6人。ところが強盗は失敗し、死傷者が出る。誰が警察に密告したのか? アジトとなる倉庫の密室で疑心暗鬼の対峙が始まった。クエンティン・タランティーノ衝撃の初監督作品。マドンナの曲について語りまくる冒頭から、言葉にできない余韻を残す幕切れまで、一瞬も見逃せない映画的気迫に満ちあふれている。


1990年代の到来を告げた革命児
タランティーノによる映画ルネサンス

 1991年、タランティーノの監督第一作。久しぶりに見ましたがハッキリわかることがありました。戦後の20世紀は1950年代カルチャーが終わると’60年代カルチャーが始まり、’60年代が終わると’70年代というように、前の10年間をしっかり蹴散らして次のカルチャーがやってきた。『レザボア〜』はまさしく’90年代の到来を告げていた。『トップガン』や『愛と青春の旅だち』の’80年代は終わったのだと。


 2020年代の問題は、’90年代カルチャーが茫漠と続いていることなのではないか。カルチャーとして’90年代を劇的に否定するような新しい作品は登場していない。2020年代は、’70、’80、’90年代が全部あるような時代。さらには’50、’60年代も含めた混合型。この感覚が今の閉塞感と関係している気がする。『レザボア〜』を見直すと、やはりあのとき、’80年代が激烈に葬り去られワクワクしたのだな、と痛感します。


 タランティーノは10本撮って引退すると宣言しているが、10本というのは示唆的。本当は1年に1本ずつ作って’90年代というディケイドを終わらせるつもりだったのでは。


 あのときはウォン・カーウァイも脇にいて、革命の旗を振り、’90年代を牽引した。タランティーノが映画だけを作り続けてきたのは、作っても作っても2000年代カルチャーがやってこなかったからではないか?


『レザボア〜』はほぼ一幕劇。複数の主人公の長台詞と会話を聴いているだけでドキドキする。それはタランティーノが劇作家だから。今でもCGを使わず、フィルムの感触にこだわる。昔ながらの手法で時代を変えた人。そして選曲センスのよさが際立つ。台詞と俳優の動きの迫力だけで斬新なものを見せた。


 もう巨匠なのだから90歳までだって撮れるはず。しかし30年以上「’90年代」をやり続けたものの、その間に起こるはずの3回の革命が一度も起きなかったことへの疲労がきっとある。


 今のところ最後の革命家。昨日生まれた人が見ても『レザボア〜』は面白い。水も漏らさぬ脚本に飛躍とシャッフルのフラッシュバック。実はこれ、映画メディアがもともと有しているもの。それをポップにやり直したルネサンス。再公開に刺激され、明るくパワーのあるクリエイターが革命を起こすことに期待しています。(談)


菊地成孔
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi



Text:Toji Aida

SERIES

「売れている映画は面白いのか?」の記事一覧

『レザボア・ドッグス デジタル・リマスター版』|1990年代の到来を告げた革命児、タランティーノによる映画ルネサンス【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『レザボア・ドッグス デジタル・リマスター版』|1990年代の到来を告げた革命児、タランティーノによる映画ルネサンス【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

映画_ドミノ_ロバート・ロドリゲス_ベン・アフレック_アリシー・ブラガ

『ドミノ』|『マトリックス』+スティーブン・キング? 続編が観たくなる異才の新境地【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト

『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家』|映画史を体現する伝説の監督ゴダール、その生涯を意外な軽さで描いた良作【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

デヴィッド・クローネンバーグ_クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』|’80年代ブレイク組の明るさと軽さが全開。巨匠クローネンバーグの理想的な老境【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

小説家の映画_ホン・サンス

『小説家の映画』|特別な監督ホン・サンスによるアートとしてのプログラムピクチャー【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

アシスタント_キティ・グリーン_ジュリア・ガーナー

『アシスタント』|女性監督のルッキズムへの問題提起。正義の中にある偽善の可能性も示唆【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

TAR/ター_ケイト・ブランシェット_トッド・フィールド

『TAR/ター』|真性の音楽映画から驚愕のスリラーへ。アートとエンタメを超える新時代映画!【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

ガール・ピクチャー_アッリ・ハーパサロ_レビュー

『ガール・ピクチャー』|普遍的なガールズ・ムービーの復活。あえて刺激抑えめな現代性を感じる【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

別れる決心_パク・チャヌク_パク・ヘイル_タン・ウェイ

『別れる決心』|還暦を前にした監督の「老境」を意識しすぎた恋愛ミステリー【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

モリコーネ 映画が恋した音楽家

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』|苦悩と葛藤。世界的映画音楽家が人生の大団円を迎えるまでを見つめる【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

映画_ショーン・ペン_フラッグ・デイ 父を想う日

『フラッグ・デイ 父を想う日』|名優にして名監督。希少価値が高い男ショーン・ペンの最高傑作かも【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

アフター・ヤン_コゴナダ_コリン・ファレル

『アフター・ヤン』|持続的で多様性に満ちているが胸に迫らないもどかしさがある【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『七人樂隊』|穏健派のベテランたちが古き香港に思いを馳せる「出し殻」オムニバス【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『七人樂隊』|穏健派のベテランたちが古き香港に思いを馳せる「出し殻」オムニバス【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』|音楽が与える感動の質が不変である稀有なミュージシャンの素顔【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『リコリス・ピザ』|陰鬱な天才監督の転向か? いい映画になぜかドキドキしてしまう【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『三姉妹』|定番の展開に新たな意外性を加えた韓流ならではのハイクオリティ家族劇【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『パリ13区』|深刻になりやすい時代だからこそパリのいまを軽やかに見つめる視点が冴える【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『アネット』|『ラ・ラ・ランド』『ボヘミアン・ラプソディ』の流れをくんだ作品だが【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『クライ・マッチョ』老境に入った監督の静かな映画? いえまさかのアンチエイジング作品です【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』夢のようなラストに向かって緻密に進む痛快この上ない破格のドキュメンタリー【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『モーリタニアン 黒塗りの記録』ジョディ・フォスターは素晴らしい! が、この題材は映画に向いていたのか?【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『スターダスト』デヴィッド・ボウイ前夜を描いた、真摯で誠実、しかし薄味すぎる作品【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】

『サマー・オブ・ソウル』ウッドストックの傍らで開催された幻の黒人音楽フェスが語りかけること【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】