謎の美少女との秘密の映画作りは
予想外の展開と衝撃の結末に!

 昨夏公開の映画『サマーフィルムにのって』の高校生たちもそうだったが、今はスマホでも映画(っぽいもの)が撮れちゃう時代だ。本作の主人公・優太も12歳の誕生日にスマホを買ってもらい、さっそく両親や誕生日ケーキなどを撮り始める。そこで突然、病気で余命いくばくもないらしい母から、自分が死ぬまでを動画で撮ってほしいと頼まれる。動揺しつつも承諾し、母のいろんな姿を撮り続ける優太。

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 ほぼ全編にわたる横長4段のコマ割りはスマホの撮影画面そのもので、手ブレやピンボケの雰囲気も再現する。淡々としたドキュメンタリータッチで綴られる映像は、しかし、予想外の展開に。ここから先は何を書いてもネタバレ地雷を踏みそうだが、スマホのフレームを通した場面とそうでない場面との対比が鮮やかだ。



 その後、母が死んだ病院の屋上から飛び降り自殺しようとした優太は、謎の美少女・絵梨と出会う。映画マニアの絵梨の強引な誘いにより、優太は彼女と一緒に古今東西の映画を見まくった末に、彼女主演で映画を撮ることになる。優太のスマホ越しの絵梨はファムファタール的な妖艶さを放ち、ともに過ごす時間は二人にとって甘く幸福なものに見えた。ところが、そこでまた思わぬ展開があり、絵梨が抱える秘密、優太の映像には映されなかった母の姿、優太が映画に込めた思いが明かされる。

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 そして、衝撃の後日談と「そうきたか!」という結末。どんでん返しに次ぐどんでん返し、『カメラを止めるな!』ぐらいネタバレ厳禁かつ二重三重のメタ構造は、どこまでが現実でどこからが映画の中の話かわからなくなり、めまいがする。極めて映像的な画面構成は、そのまま絵コンテとして映画を撮れそう。が、実はマンガならではの飛躍もあって、意外と難しい気がしなくもない。いずれにせよ、痛切な愛の物語であることは間違いない。



 絵梨のキャラは初連載作『ファイアパンチ』に登場する映画狂のトガタを彷彿させる。同作では映画が重要なアイテムになっていたし、前作『ルックバック』も非常に映像的だった。インタビューなどの発言からしても作者はかなりの映画好きのはず。この際、みずからメガホンを取ってみてはくれまいか。


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『さよなら絵梨』
藤本タツキ/集英社

病気の母の願いで動画を撮り始めた優太は、謎の美少女と出会い、彼女主演の映画を撮ることになるが…。二重三重のメタ構造とどんでん返しに驚嘆する映画と愛の暴走ドラマ!



南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。


Ⓒ藤本タツキ/集英社