酒好きの駆け出し女性建築士が
案内するリアルな建築設計の世界!

 特に引っ越し予定がなくても物件情報を見るのが好き、という人は結構いるのではないか。間取り図を見て妄想したり、デザイナーズ物件の写真にときめいたり。40代ともなれば、雑誌などで他人のオシャレな家を見て「こんな家を建てたい!」と思うこともあるだろう。



 そんな人におすすめなのが本作。ありそうであんまりない〈本格建築設計マンガ〉である。主人公は、20歳で青森から上京し、設計事務所に7年勤めて独立した一級建築士・古川矩子。気軽に立ち寄ってもらえるようにと事務所に立ち呑みを併設した。開業したばかりでヒマな彼女だが、建築士としての能力と志は高い。

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 隣のスナックのママの弟が建てる家の図面から欠陥を見抜いたのは序の口。社会科見学に来た姉妹の家の間取りを推理して図面に起こす洞察力はまるで名探偵のようだ。しかし、それよりむしろ感心するのは、「実測」という地味な作業。図面がない古い物件などを実際に測って図面化するのだが、建物の構造を透視するかのような職人技がめっぽう面白い。メジャーを使わずとも目測や体感でおよその寸法がわかってしまうのもさすが。バーなどのお店に入ってもカウンターの高さや天板の厚みなどを無意識に測ってしまうのは建築士の職業病らしい。

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 天井が下がっている部分や床の段差にも設計上の理由がある。道路沿いに1~3階だけが飛び出した長靴のような建物があるのはなぜか。街で見かける「建築計画のお知らせ」の標識の裏事情など、知らないことだらけで「へえ~」の連続。それもそのはず、作者自身が一級建築士と1級建築施工管理技士の資格をもつ、その道のプロなのだ。したがって、図面や建築物を描くのはお手のもの。そういう手に職ある人がマンガ家になり(当初はエロマンガを描きながら)建築ネタのマンガを描くようになるというところにマンガ文化の厚みを感じたりもする。

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 建築話だけでなく、酒好きの矩子が飲み歩く回では実在のお店が登場するなど、グルメマンガの要素もある。酒や料理の描写、矩子の飲みっぷりもいい。「渡辺篤史の建もの探訪」が根強い支持を受けているように、テレビと建築の相性もいい。専門職女子×建築×グルメとくれば、実写ドラマもヒット間違いなし!


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『一級建築士矩子の設計思考』
鬼ノ仁
1巻発売中/日本文芸社
「週刊漫画ゴラク」連載中

一級建築士の資格をもつ作者が描く本格建築設計マンガ。名探偵ばりの洞察力を発揮する主人公・矩子の活躍はもちろん、実在の酒やお店が登場するグルメマンガ要素も楽しい。



南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。


Ⓒ鬼ノ仁/日本文芸社