現代版“柳田民俗学”が
人生の多様性を肯定する

放送開始から8年目を迎えた「家、ついて行ってイイですか?」であるが、番組の強度はいまだ衰え知らず。圧倒的な面白ささを維持している。昨今のコロナ禍の状況により、深夜の街を徘徊しての声がけというロケスタイルを自粛せざるを得ない危機に陥るも、遠隔操作できる無人の定点カメラ導入というアイデアで見事にそのピンチを脱してみせた。

街角のスーパーや銭湯などに設置したカメラに話しかけてきた人々にターゲットを絞り、「家、ついて行ってイイですか?」と交渉していくのだ。無人のカメラに向かって話しかける様は、どこかカトリック教会の告解部屋のイメージを想起させる。彼らは何か“語りたいこと”をもっている人々なのだろう。心の底にあるものを誰かに知ってほしい、そういった人々が集まってくるからこそ、番組は常に芳醇なエピソードを採集し続けられるのかもしれない。

「事実は小説よりも奇なり」の言葉をなぞるように、語られる人生の記憶はどこまでも濃密だ。今年8月にテレビドラマ版の放送が開始されたことが何よりの証左だろう。どんな脚本家にも書けないようなドラマティックな展開や感情の機微がこの番組には詰まっている。そして、同行スタッフは取材対象の人生がどんなに数奇で壮絶であろうとも、けっして茶化したりはしない。ザ・ビートルズの名曲「Let It Be」にのせて、ただ“ありのままに”肯定してみせる。であるから、そこに脚色や過剰な演出はない。ナレーションやBGMは極力使用せず、「道行く人々がありのままに自分の人生を語る」というリアリズムが番組の最大の特徴だ。

番組の企画を立ち上げた高橋弘樹によれば、民俗学者である柳田国男の代表作『遠野物語』のような市井の人々の生活誌、その現代版を作りたいという思いがあったという。番組が映し出す、どこにでもいるような人々の豊かな人生の軌跡、その奥行きが視聴者の想像力を刺激する。街ですれ違うあの人も、あの人も、誰にも知られることのない濃密な時間をもち得ているのだということ。この番組がそんな世界の秘密を垣間見せてくれることで、交わるはずのない私たちの人生は、どこかで緩やかにつながってしまう。テレビ番組がつくりだすこの奇妙な連帯が、私たちの孤独な夜を温めてくれるのだ。なにかと疲弊の多いこの時代、この番組がさらに支持を高めていくのは想像に難くない。


「家、ついて行ってイイですか?」
テレビ東京系にて毎週水曜21時から放送中。
出演:街で終電を逃していた方々、ビビる大木・矢作兼(おぎやはぎ)

終電を逃した人の自宅にタクシーで同行するドキュメンタリー。素のままの部屋は、人生ドラマがちりばめられた宝箱!? ドラマ化も話題に。

©テレビ東京



ヒコ
人気ブログ「青春ゾンビ」で、ドラマ、映画、お笑いなどのポップカルチャーのレビューを執筆。「10代の頃の自分が読んでも嫌な気持ちにならない文章を書く」ことが信条。



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