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『スターダスト』

監督/ガブリエル・レンジ 
出演/ジョニー・フリン、ジェナ・マローン、デレク・モラン 
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中



1971年、24歳のデヴィッド・ボウイはアルバム『世界を売った男』のアメリカでのプロモーションのため海を渡る。全米横断の旅の道中、彼はレコード会社のパブリストのひと言で自己改革の糸口を発見する。兄からの影響、そしてある「恐怖」との闘い。主人公の内面を丁寧に描いた作品。タイトルは後にボウイが名乗るペルソナ「ジギー・スターダスト」から。

©2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC

デヴィッド・ボウイ「前夜」を描いた、真摯で誠実、しかし薄味すぎる作品

不遇期からのクイーンを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』の大成功を受けて作られたのでしょうか。デヴィッド・ボウイがブレイクする直前までを映画化した作品です。UKアーティストのアメリカ進出というトピックから、細かな描写で言えばカメラ位置まで『ボヘミアン・ラプソディ』との共通点がいくつかあります。ただ、あの大ヒット作のような出来事は映画的に起きていません。

なぜボウイは音楽の内容よりもはるかに奇抜な衣装を纏い「自分は宇宙人だ」とまで言いだしたのか。その背景をかなり理詰めで解き明かしています。またボウイのことも周辺の関係者のこともおとしめてもいない。真摯で誠実、史実に忠実な作品とも言えます。

しかしまず残念なのは主演俳優。肝心の歌がうますぎて、アメリカの健康的なロックのよう。ボウイの歌はもっと病的で、まるで歌っていないような音程。ライブシーンは少ないとはいえ、クライマックスはライブ。だとすればあの歌声では音楽的説得力はありません。ルックスもボウイというよりベック似ですよね…。

描かれるのは主にアメリカのレコード会社の宣伝担当者との二人旅。プロモーションのためインタビューを受けても、ラジオに出演してもうまくいかない。この部分が長すぎます。何かありそうで何もない。イギリスならではの退廃的、倒錯的な要素とアメリカが放つ音楽は力強くて感動的なのだという理念の「調停」がうまくいっていない。ヒューマンドラマとしては確かに大ハッピーエンドではある。ボウイが自己確立するまでの物語。しかしすべてが中途半端で、すべてが世界市場向け。物事を突き詰めない、刺激の少ない映画。いらないエピソードが多すぎるのは物腰の弱さに通じます。この点は、現代的。コンプライアンスに留意しすぎ。映画的に「盛る」とネットで批判が起きる時代。しかし『ボヘミアン・ラプソディ』は腹をくくって史実とは異なることも描き、感動させました。

デヴィッド・ボウイという特大ネタを扱うにはあまりに淡白で薄味。ここはダメだよ!と興奮させられることもなく、ぬるい。映画『2001年宇宙の旅』がボウイにインスパイアを与えた?と思わせる冒頭シーンに期待させられただけに、とても残念でした。


菊地成孔
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
ch.nicovideo.jp/bureaukikuchi


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Text:Toji Aida

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