10年前のハリウッドラブコメ作品は日本の“今”だった? 人生の再スタートを切った40歳女性とお人好し過ぎる24歳の青年とのラブストーリーに、ふたりは何を感じたのか。
『理想の彼氏』
--2009年公開『理想の彼氏』です。“ザ・ラブコメ”といったタイトルですね。いかがでした?
高橋芳朗(以下、高橋):ご都合主義の適度な微笑ましさも含めて“ナイスラブコメ”だったな。詳細に触れていく前に、まずはあらすじから。「主婦として平穏に暮らしていた40歳のサンディ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、夫フランク(サム・ロバース)が長年にわたって浮気をしていたことを知って離婚を決意。ふたりの子どもを連れてニューヨークに移住すると共に、スポーツジャーナリストになる夢を再び追うことに。人生の再スタートを切った彼女は、引越し先のアパートの階下にあるカフェで働く24歳の青年アラム(ジャスティン・バーサ)に遭遇。ひょんなことからアラムにベビーシッターを頼んだサンディは徐々に彼を意識し始めるのだが…」というお話。
ジェーン・スー(以下、スー):あまり深いことを考えたり受け取ったりしたくないときに、カジュアルに観られる良作。つまり、人物や物事が複雑なレイヤーでは描かれていないってこと。そういう作品って生活に必要だよね。サンディのキャラクターだけど、「新しい女性の門出」としてはステレオタイプ的ではあるの。一般的に「幸せの象徴」とされる郊外の裕福な家庭の妻だけど、実は夫はモラハラ体質で、サンディは反論できない。専業主婦で、子どもが一番大切。スタイリングも秀逸で、徹底してカジュアルながら清楚で上品。そういう女がどうやって「枠」からはみ出して自分の人生を手に入れるかという話。
高橋:そんなサンディのセリフに「郊外族の妻なんて檻の中のハムスター」というパンチラインがあったけど、彼女はサンフランシスコ生まれでスタンフォード大学卒という裏設定がある。
スー:そうそう。スポーツネットワーク番組を見て各選手や試合の統計データを作れちゃうほどの能力もある。つまり、本来の自分をまったく発揮できていないってこと。離婚してからの彼女の方が、元気溌剌。素の自分に近いということがわかりやすく描かれていたね。
『理想の彼氏』
監督・脚本:バート・フレインドリッチ
出演:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジャスティン・バーサ、アート・ガーファンクル
公開:2009年11月27日(日本)
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)。TBSラジオ『生活は踊る』(月~木 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。