時計について学びを深める連載、今回のお題は「永久カレンダー」。三大複雑機構の一つだが、IWC シャフハウゼンは実用性にもこだわっているという。“日常使いできる永久カレンダー”とはいったい?
IWCが革命をもたらした永久カレンダーを学ぶ
教えてくれたのは…
40を超える媒体で時計企画を手がける識者。時計イベントの企画や登壇も行う。
今回受講したのは…
PR会社「にしのや」ディレクターでもあるファッション業界の中心人物。新作からアンティークまで、幅広く興味をもつ時計愛好家でもある。
多くのファッションブランドのPRを手がけながら、2019年にギャラリーショールーム、エンケルを立ち上げる。クラフトや家具にも精通。
ジェラルド・ジェンタが手がけ、1976年にデビューした傑作「インヂュニアSL」のデザインを現代的にアップデートし、さらにそこに永久カレンダー機構を組み込んだ「インヂュニア・パーペチュアル・カレンダー 41」。6時位置にはムーンフェイズが、9時位置には小窓式のうるう年表示も組み込まれる。
伝統と技術の蓄積から生まれた論理的な永久カレンダー機構
4月は30日まで、5月は31日までといった月の大小に加えて、うるう年の有無まで把握して動く「永久カレンダー」は、時計好きであれば、その名を聞いたことがあるだろう。
篠田 永久カレンダーの発祥は、宗教とかかわりがあります。現在の暦はグレゴリオ暦といって、1582年にローマ教皇グレゴリウス13世が定めました。なぜキリスト教が正確な暦を求めたのか。それは重要な祝祭である「イースター」の日を正確に割り出すためです。イースターは、昼と夜の時間が等しくなる「春分の日」から最初の満月の日の次の日曜日という複雑な暦から割り出す移動祝日なので、正確な暦を定める必要がありました。そのため永久カレンダー機構の歴史はかなり古く、まずは柱時計から、そして技術進化とともに小型化され、懐中時計に搭載されました。
水澗 永久カレンダーのことはほとんど知らなかったのですが、16世紀から始まるというのは壮大な物語ですね。
西野 どういう仕組みなんですか?
篠田 4年かけて一周する48カ月カムが特徴です。このカムには、月の大小に合わせて、30日と31日、そして28日という形で深さが異なる溝が刻まれており、その溝に対応してレバーが動き、カレンダーを自動的に修正します。そして4年目の2月のみ29日に溝の深さが設定されていて、そこがうるう年になる。通常のカレンダー機構と比較すると、約150個の追加パーツが必要になるので、腕時計のサイズにするのが難しいし、メカニズムも複雑で、取り扱いもナーバスになります。
水澗 それだけすごい機構なら、高価になるのは当然ですし、気軽には使えませんよね。
篠田 ところがその常識を打ち破ったのが、IWCなんです。天才であるエンジニアのクルト・クラウスは、ムーブメントのカレンダー車が切り替わる動きを利用する画期的な永久カレンダー機構を1980年代に考案しました。これを既存の腕時計用ムーブメントの上にのせるモジュール式にすることで、パーツ点数を約80個に減らすことができたのです。
西野 アンティークのIWCも技術レベルが高いと聞いたことがありますが、長い歴史の中でずっとすごい時計を作っていたんですね。
篠田 モジュール式にすると衝撃にも強くなり、修理もしやすい。だからIWCは、パイロットウォッチなど日常使いの時計にも永久カレンダーを搭載している。それはまさに革命でした。その一つが、今回の「インヂュニア・パーペチュアル・カレンダー」です。
西野 なるほど。つまりはデザインの天才、ジェラルド・ジェンタとエンジニアの天才、クルト・クラウスという二人の天才の競演ってことですか!
篠田 だから特別なんです。もちろんこのモデルのムーブメントも、IWCの伝統的なモジュール式で、カレンダーの修正はリュウズのみで行えます。ケースサイドに修正用のプッシャーが不要なので、防水性能も10気圧を確保しています。
水澗 それなら普通に使えますよね。しかもこれ見よがしじゃない。でも、そのさり気なさがカッコいいし、色も美しいですね。
篠田 ケースは41.6㎜径という、使いやすいサイズですし、ジェンタデザインの特徴である薄型化を実現するため、秒針を外してケース厚を13.3㎜に抑えています。
水澗 徹底的に実用性を目指すんですね。
西野 うるう年なんて、スマホのカレンダーだったら気にもしない。でもそれを機械仕掛けで実現させるだけじゃなく、使いやすくしようと考えるなんて、ロマンしかない。
篠田 永久カレンダーは、太陽や月がつくり出す宇宙の法則を凝縮させた機構。それを日常使いできるなんて、最高に贅沢ですよ。
西野 一生に一度は三大複雑機構の時計を手にしたい。天才たちの思考に近づけると考えたら、この価格はむしろ安いのかも。