時計は複雑なほど“偉い”と思われがちだが、実は薄さを極めた時計には別の価値があるとウォッチディレクターの篠田哲生さんは語る。今回は、そのすごさを薄型の名門ピアジェに学ぶ。
今回学んだ人は...
1986年生まれ。三村小松法律事務所代表。弁護士としての専門分野はアートとファッションで、人気ブランドのクライアントも多い。時計は、クラシカルなブレゲを愛用。
薄いは偉いってどういうこと?
歯車の厚さを0.12㎜にするなど徹底的にパーツを薄型化し、またムーブメントの構造やレイアウトを進化させることで、4.3㎜という薄さを実現。ケースとムーブメントを合わせたパーツ点数は238個。
シャープなデザインのケースからは静謐で研ぎ澄まされた美しさを感じる。
ファッション好きなら
ぜひとも薄型を選んでほしい
ファッション好きにとって、時計のケースは薄いほうがいい。シャツやカットソーの袖口に、大きな時計が引っかかってしまうのは避けたいからだ。その点、ケースが薄ければ細部まで美しい着こなしになるのは当然のこと。
小松 私は仕事柄スーツを着る機会も多いのですが、シャツと時計の関係は悩ましいテーマですし、実際に普段愛用するのも、薄いドレスウォッチ。でも、それと比較しても、この時計は驚くほど薄いですね。
篠田 ピアジェの「アルティプラノ アルティメート オートマティック 910P」のケース厚は、なんと4.3㎜しかありません。一般的な“薄型ウォッチ”のケース厚が6㎜くらいと考えると、そのすごさがわかるでしょう。実は1874年に創業したピアジェは、薄型ウォッチの名門でもある。その始まりは1957年にデビューしたキャリバー9Pというムーブメントで、手巻き式で厚みが2㎜しかなかった。わかりやすくたとえるなら、五百円硬貨一枚分ですね。
小松 …。以前、ムーブメントの分解組み立てをやらせてもらって、内部のことが少しわかってきただけに、驚きしかありません。
篠田 ピアジェは2㎜厚のキャリバー9Pの成功以来、一貫して薄型ムーブメントだけを開発し、薄い時計を作り続けています。
小松 どうしてピアジェは、徹底的に薄型にこだわるのですか?
篠田 それはピアジェが“装うための時計”を作っているからです。ケースが薄ければ、着こなしが美しくなる。さらにムーブメントが薄ければ、ダイヤル素材に凝ったり、複雑機構を追加したり、宝石をセッティングしてもケース厚を抑えることができますからね。
小松 実は時計を探しているときに、ピアジェも候補でした。確かに美しいですよね。
篠田 この「アルティプラノ アルティメート オートマティック 910P」は、その名が示すとおり、薄型技術の“究極形”として生まれました。見た目からして普通じゃない。
小松 不思議なレイアウトですよね。
篠田 実はこの時計、ムーブメントを構造から変えてしまったんです。これまでの時計は、ムーブメントを薄くして、薄いケースに収めていました。しかしピアジェはケースの裏ブタをムーブメントの基礎部分と考え、そこに直接パーツを組み込んでいる。しかも時刻表示を11時側にオフセットすることで生じたスペースに、歯車などを収めている。この構造が生まれて以降、薄型競争が激化しており、時計ケースの厚さが2㎜を切る時代に入っています。ムーブメントじゃなく、時計そのものの厚みですからね。
小松 もはや想像もできないレベルですね。
篠田 しかしピアジェは、かつてのキャリバー9Pの2㎜という厚さを、一つの価値ととらえており、ケース厚の下限を2㎜として、その中で何ができるかを考える。「アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」なんて、トゥールビヨン搭載なのにケース厚が2㎜。でもケース径は41・5㎜で、防水性もあって、パワーリザーブも約40時間と、実用性も考えられています。
小松 2㎜へのこだわり、面白いですね。ただ薄ければいいという話でもなく、そこに理想や哲学があるんですね。ところで、ケースに沿ってくるくる回る青い輪の部品は…?
篠田 そこもピアジェのこだわりで、これだけ薄いのに実用的な自動巻き式なんです。しかも厚みを抑えるためにムーブメントの周囲を環状の錘が回転するペリフェラル式ローターを採用しました。ちょっとケース径は大きくなりましたが、メリットも大きい。
小松 でも実際に装着してみると、大きさはほとんど気になりませんね。むしろ薄さと直径が、ちょうどいいバランスに思えます。
技術と審美性を磨き上げた薄型ウォッチは、もう一つの究極形なのだ。