「ウォッチズ アンド ワンダーズ」取材の合間を縫って、山間にある工房を訪れた。ここにはメンズウォッチの世界で確固たる地位を築いたカルティエのすべてが詰まっていた。
TRIP/1 Watchmaking Manufacture
2001年新しく始動の近代的マニュファクチュール
理想を追求するために造られたカルティエ ウォッチの骨格を成す工房。
スイス時計産業の中心でカルティエの時計は生まれる
独立する記念として「ロードスター」を購入した篠田哲生(時計ジャーナリスト)と、会社員初ボーナスで「パシャC」を購入した山崎貴之(UOMOブランド統括)。カルティエの時計に深い縁を感じている二人が、スイス時計産業の中心都市ラ ショー ド フォンにある、カルティエの時計工房を訪ねた。
カルティエが1853年からウォッチを製作し、1904年には世界初の実用的腕時計を発表したことは有名な話だが、この地で本格的に時計製造を始めたのは、1974年のこと。まずは市内の数カ所に小規模の工房を構えたが、製造効率を高めるために集約し、2001年に近代的なファクトリーを完成させた。その規模は大きく現在は約千人のスタッフが勤務。時計の研究開発部門やムーブメントの製造、検査などの工程を一つの建物内で完結させることで、多くの時計を効率よく製造できるようにしている。
山崎 ずいぶんのどかな風景の中に、突然近代的な建物が登場して驚いた。スイス時計って、イメージでは歴史ある工房でコツコツと時計を作っているって印象があるじゃない?
篠田 この辺りはスイス時計産業の中心地で、有名な時計ブランドの社屋がたくさんあります。もちろん古い工房も多いのですが、2000年代に入ってからモダンな建物が増えましたね。
山崎 高品質な時計を作り続けていくには、新しい技術を取り入れる必要があったってことだよね。今回驚いたのは、カルティエが積極的に3Dプリンター技術を取り入れていること。
篠田 パリとジュネーブにデザインチームがいて、生まれたデザインを3Dプリンターで立体化して検証する。この技術の導入で、完成までにかかる時間が半減されたそう。そのスピード感は他ブランドにはないかもしれません。
山崎 しかもケースのデザインだけでなく、ブレスレットやクラスプにもそういった技術を応用していた。新作「サントス デュモン」のブレスレットはすごく完成度が高かったけど、その背景にはこういった新しい技術を積極的に取り入れる姿勢があったんだね。
新しい技術が時計の完成度を高める
篠田 時計の世界はムーブメントの精度を気にしがちですが、カルティエは、ケースやブレスレットの仕上げや加工、クラスプのカチッという収まりにまで“精度”を求めている。だから総合的な完成度が高まる。
山崎 こういう近代的な工房で、実際に時計を作っている現場を見ると、その完成度の理由がわかるよね。
篠田 カルティエはムーブメントの開発からパーツ製造、組み立てまで自社で一貫して行っていますが、その技術力の結果が、「クラッシュ」のような独創的な時計に現れます。
山崎 スケルトンタイプのムーブメントに合わせて歯車をセッティングして、それを正しく動かすなんて、自社ですべて管理しないと無理だよね。
篠田 「クラッシュ」の風防の製造工程も面白かった。現代の時計の風防に用いるサファイアクリスタルは、硬くて加工がとても難しい。だから「クラッシュ」の前面ガラスはミネラルガラスをケースに合わせてカットして、型に入れて熱して柔らかくし、重みで凹状になったら外して冷却する。それを一枚ずつ職人が手仕事で作っている。
山崎 最新技術と昔ながらの手仕事が融合しているのが印象的だったな。
TRIP/2 La Maison des Métiers d'Art
伝統の匠の芸術を守りつつ、未来をつくる
美しい時計は、人の手から生まれる。それは数百年間変わらぬ真理だ。
時計工房の最上階で豪華な昼食コースを楽しんだ後、敷地内の別の建物に向かう。ここは古い農家を時計工房へと改装したもの。仏語で「匠の芸術」を意味する「メゾン デ メティエダール」と呼ばれ、カルティエの時計の中でも伝統的な手作業を駆使した美しい作品が作られている。
すべては美から始まる それが個性となる
篠田 まず驚いたのは、メティエダールにかかわる職人の数。これだけ大きな規模は見たことがない。
山崎 多くの職人を抱えることができるのは、それだけ多くの仕事があるということ。カルティエの芸術性が世界的に評価されている証明にもなる。
篠田 しかもハイエンドウォッチの製造部門がこの工房に組み込まれているのも印象的でした。つまりカルティエでは、複雑で美しい時計は“匠の芸術”から生まれると考えているわけです。
山崎 ハイエンドウォッチの技術は、もちろん素晴らしい。でもカルティエの場合、そのレベルの時計であっても、まず芸術性から話が始まる。ファッション誌の仕事をしてきた僕からすると、カルティエのようにシェイプの美しさが先に立つほうが、こういうふうに身につけたいなというイメージが湧く。最初のインパクトだけで、十分に欲しいって思わせる力があるよね。
篠田 「クラッシュ」なんて、ひと目惚れする典型ですよね。でも独創的なシェイプであるだけでなく、その形に合わせてムーブメントを開発しているところも含めて評価したい。左右非対称のスケルトンという極めて特殊な構造で、許されるスペースは極めてタイトですが、搭載しているCal.1967 MCは自社製造。しかもブリッジをひしゃげたローマン数字にするなど、機能と美観が完璧に融合されています。
山崎 あのシェイプを成立させること自体が、卓越した技術の証明。しかも細部も素晴らしい。時計師の手仕事を間近で見て、感動しました。
篠田 こういう美しいシェイプが数十年前から存在し、それが伝統的な匠の芸術と現代的な製造技術で現代の時計へと進化している。それがカルティエの強みなのでしょう。
山崎 工房の一部に、時計のインスピレーション源として世界各地から集めた民芸品等を展示していたでしょ。あそこからもアイデア豊富なメゾンであり続ける理由がわかった。例えば日本の折り紙にしても伝統的なものだけでなく、最新の複雑系折り紙の本まであったり。柔軟で開かれた感じがした。
篠田 それこそスタッフが旅先のフリーマーケットで購入したものまで並んでいて、あらゆる所からアイデアを探しているとわかりましたね。歴史あるブランドなのに頑固さがないし、チャレンジする意識を誰もがもっている。
山崎 そこがカルティエが愛される理由でしょう。多くのシェイプがこのメゾンから生まれたのも納得ですね。
雑誌、新聞、WEBなど多くの媒体で時計記事を執筆。これまでに数十の工房を取材したが、カルティエは初。
編集者キャリアを通じて、多くのカルティエ企画を担当してきただけに、初の工房取材に心が躍る。
カルティエ カスタマー サービスセンター
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