2023.05.01

アディダス コンソーシアム カップに思うこと【教えて! 東京スニーカー氏】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、影響力の強い世界16のスニーカーリテーラーが、デザインやアイデアを競うアディダスの「コンソーシアム カップ」について。

アディダス コンソーシアム カップに思うの画像_1
アディダス コンソーシアム カップ_サンバ_オストリッチ_ミタスニーカーズ02

’80年代に10名のNBA選手が開発に携わったトップテンにはオストリッチを使った稀少なモデルが存在し、ミタは過去にそのデザインで特別なフォーラムを製作しました。これはそのストーリーを受け継ぎ、新たにデザインされたカップ用のサンバ。僕的には参加ショップ中、最も完成度の高いデザインだと思いました! 参考画像。mita sneakers提供



 アディダスでは、影響力の強い世界中のスニーカーリテーラーを集めたコンソーシアムというプラットフォームが2005年に発足しました。以後、コンソーシアムでしか販売されないハイヒートなモデルが市場をにぎわせています。で、この2月に有名な16のリテーラーがデザインやアイデアを競う「コンソーシアム カップ」が開催されました。これはアプリ会員の投票によって勝者を決める純粋なトーナメント対決。僕がすごく興味をもった理由は、参戦ショップがそうそうたる顔ぶれだったため。過去にほかのメーカーでもスニーカーのバトル企画はありましたが、シューズのモデル同士や個人の対決が多かった。しかし今回は「お店同士」の対決である点が興味深いポイントです。


 今でこそメーカーはデジタルが発達したことで、アプリを駆使したD2Cビジネスが主流になりました。しかし僕の青春は、お店に足を運んで買うアナログな’90年代。だからこそリテーラーの提案力を信じていたし、個性の違いを楽しんでいました。この店にはコレがあり、あの店にはアレがある。バイヤーそれぞれの審美眼が、やがて21世紀になるとメーカーの信頼を得てコラボレーションという形態に発展し「そこでしか手に入らないもの」を作るようになった。今回、日本で唯一選ばれたミタスニーカーズ(以下、ミタ)は、そんな時代を象徴するショップだったと思います。20年以上の付き合いになるクリエイティブディレクターの国井さんはUOMO世代。彼が手がけるモデルは、常に配色にストーリーをのせていました。それは服に合わせやすいというファッション的な狙いでも、軽妙な笑いを誘うユニークなモチーフでもありません。ただすべてに意味があり「文化的質量」がありました。国井さんがスニーカーに注ぐ熱量は2000年代のカルチャーそのものであり、僕も大きな影響を受けて育ちました。


 1回戦の相手は、イギリス代表のオフスプリング。ニューバランスの別注を極めて英国的にまとめるのが得意なショップです。ミタは、ヴィンテージ界隈では幻と珍重されるトップテンの有名なカラーリングや質感をのせたサンバをデザイン。アーカイブをサンプリングして勝負しました。今回の写真は、そのミタが提案したデザインを特別に拝借したものです。今のスニーカーは大きく分けて「ファッション」「グラフィック」「サンプリング」と3つのアプローチでデザインされています。見る限り1回戦は「ファッション」的なデザインがほとんど勝利していて、わかる人には刺さるミタらしい「サンプリング」はそもそもマジョリティで勝敗を決めるシステムには向いていないように思います。しかしミタは、国井さんは自分たちの得意とする分野を表現していました。結果は大接戦の末に敗退してしまいましたが、勝ち負けより大切なことがスニーカーの世界にもあるな、と感動しました。原稿を書いている今は、まだ2回戦の途中なので、もう少し楽しみたいと思います。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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