2019.09.15

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.14 BARACUTA G9|2015年5月号掲載

高倉健さんが亡くなった。その直後、テレビで追悼番組を観た。バラクータ好きなのは知っていたが、バラクータを着た健さんはしみじみ格好よかった。僕も健さんみたいに、G9が似合う男になりたいと思った。

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僕がバラクータG9の存在を知ったのは1974年。小学4年生のときだった。5つ年上の兄が、雑誌『MEN’S CLUB』をバイブルにしていた時代である。G9は、兄の部屋にあった『絵本アイビーボーイ図鑑』の中に、穂積和夫さんのイラストで描かれていた。



兄の部屋には、『平凡パンチ』や『月刊PLAYBOY』がズラリと並んでいた。ラックには、キャロルやビートルズ、ローリング・ストーンズやダウン・タウン・ブギウギ・バンドなどのレコードやカセットテープが並び、洋楽邦楽が入り乱れて流れていた。



僕が生まれて初めて口ずさんだ洋楽は『ヘイ・ジュード』である。兄が部屋で友達とタバコを吸っていないか「見てこい」と父に命じられ、毎日パトロールに行っているうちに覚えた。意味もわからず口ずさんでいると、兄の友達に「部屋の真ん中で歌え」と言われて歌ったこともあった。ビートルズが何なのかも知らなかったが、そのメロディは間違いなく魅力的だった。



さて、僕がバラクータG9に初めて袖を通したのは高校1年の秋だった。穂積さんのイラストで知ってから、実に7年の歳月が流れていた。イラストで見たときには「おじさんの着るジャンパー」だと思っていたため、トラッドショップでその道ウン十年のスタッフにうんちくを語られてもまったく心に響かず。G9に対する「おじさん」印象は変わらなかった。高1にして“おじさん風”を気取る気はなかったので、そのときは試着だけで終わった。



その1年後、同級生がサックスブルーのG9(リブはネイビー)を着て、リーバイス505とオールスターの黒いハイカットを合わせている姿を見てしびれた。一瞬、「僕もあんなふうに着れば…」と思ったが、実際問題、その時点ではすでにアイビーファッションへの興味は失せていたため、実行には移さずじまい。以来34年。時折、スティーブ・マックィーンの古い写真でG9を着ている姿を見ては「渋い」と感心していたが、僕が着ても野暮ったくしか見えないだろうと思っていた。



そんな僕だが、最近はバラクータに限らず、ブルゾンをエレガントに着こなせる男になりたいと考えている。コートやジャケットなら、最高に満足しているものが何点かあるが、ブルゾンでそれに匹敵するものは一着もない。つまり、僕のブルゾン・ショッピングにはヒットが一本もないのだ。しかし僕は、健さんの追悼番組を観て確信した。「男はブルゾンだ! バラクータG9だぜ!!」。



原宿に〈CASSIDY HOME GROWN〉という店がある。月に数回行くこともあれば、2カ月くらい行かないこともあるのだが、行けば必ず欲しいものがある。ここに去年の秋から、バラクータのG9が一着だけハンガーに掛かっていた。「あるな~」と思ってはいたが、見るだけ。数カ月してからやっと試着した。



すると、長年お世話になっている店主の八木沢さんが「これはメイド・イン・イングランドで、最近は珍しいんです」とぽろり。それを聞いた僕は、それまでの迷いが一瞬のうちに吹き飛び、ブルゾンを着たままレジへと向かった。僕はUKものに目がない単細胞である。さて、僕は健さんに1ミリくらいは近づけたであろうか。



(左)コンバースのオールスターを一気に3足購入。すべてUKもので、自宅近所の〈JOHN〉で購入。 (中)〈アンユーズドのフェルトハット。カウボーイとボルサリーノが合体したような形状が新鮮。崩してかぶりたい。 (右)バラクータのG9。ジーキューではなく、ジーナインと読みます。古典的おっさんカラーでデビュー。
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Text:Tomoki Sukezane 
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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