2026.10.01
最終更新日:2026.10.01

【綾瀬はるかインタビュー】「“ん?”っていう、違和感を大事にすること」:映画『ファーストボイス』

UOMOの世代にとって、まさにマドンナ。その美しさ、かけがえのない魅力は40代の今、さらに輝きを増している。さまざまな役を演じてきた彼女が最新作で演じるのは、弁護士。いかにも彼女らしい、ふんわり優しくて芯の強いヒロインが、常識と慣習でガチガチに固まった世の中に、異議を申し立てる。

綾瀬はるか

舞台は「ボディコン」の時代

綾瀬はるかさん主演の映画『ファーストボイス』が10月2日に公開される真っ赤なスーツ、それもボディコン仕様のスカートにハイヒールで腰に手を当て、すっくと立つポスターが出回っているので、この作品が気になっている人も多いだろう。それを見て、依頼人のために奮闘努力して裁判に勝つ、ありがちな展開を予想するだろうけど、本作はそこにひと味もふた味も加わって、上質のエンタテイメントになっている。時代設定は約40年前の日本、つまりはバブル期。裁判で争うテーマは〝ハラスメント〟。これは実際に起きた日本初のハラスメント裁判に着想を得て作られた、なかなか見応えのある社会派の作品でもあるのだ。

「作品や役を通して、明日が少し明るくなったり、元気や勇気を届けられたらといつも思っています。この作品の脚本を読んだときも、同じことを思いました。そして実話に着想を得た物語と聞いて、多くの方に届けたいと思いました」

ファーストボイス

時は日本がバブル景気に沸いていた時代。当時を知らない若者たちは、日本人全員がディスコで踊り狂っていたと思うかもしれないけど、実際は違う。ま、そういう人たちが一部存在していたのは事実だけれど、もちろんそれがすべてじゃない。綾瀬はるかさん演じる朝日道子弁護士のところに駆け込んで来た上原恵(ファーストサマーウイカ)は、職場を理不尽な理由で追われ、その是非を問いたいと訴える。

ファーストボイス 2

雑誌『MORE』が果たした役割

ここで重要な役割を果たすのが雑誌『MORE』。1977年創刊した、働く女性のための月刊誌だ。そう、『UOMO』と同じ集英社が出していた。2026年に惜しまれつつ休刊となってしまったけれど、社会的に大きな使命を果たしていた。つまり〝女だって働いて自立して生きていく権利がある!〟と声高に宣言したのが、『MORE』なのだ。

ちなみに、今回起用されたライターこと私は、1985年頃からフリーランスで働いてきた。『MORE』でも長い間、いろいろな記事を書かせていただいた。当時の空気をよく知っているから、ここでちょっと解説させていただく。

男女雇用均等法が成立したのが1985年。法律で決まったからって簡単に日本の会社組織が心を入れ替えるはずもなく、1997年にさらに改正されてようやく世の中が動き出した。だからこの映画の設定は働く女性が、とりわけデキる女性が、未だに職場で煙たがられていた時代。

ファーストボイス 3

女性が働くのは結婚前の腰掛け程度、女性は職場の花(つまりは、枯れたらオシマイ)、女性は結婚したら退職して家庭に入り、家族を支えるのが当たり前、と言われていたそんな時代に、『MORE』は敢然と異議申し立てをした。職場でのハラスメント、当時はハラスメントなんて言葉は世間に流通していなかったけれど、男女差をベースにした理不尽な待遇を弾劾した記事を、堂々と掲載していた。例えばそのタイトルは、『もう許せない!! 実態セクシュアル・ハラスメント』などなど。『ハラスメント』の文字の横には、『性的嫌がらせ』とルビがふってあった。その記事を見たことが、上原恵に勇気を与える。退職に追いやられた自分の境遇を〝当たり前のことじゃない、間違っている!〟と正々堂々、申し立てるきっかけとなったのだ。

本作はあくまでもフィクションであり、実際の裁判である福岡セクシュアル・ハラスメント裁判に着想を得て制作されたものだけど、『MORE』が果たした役割は、現実のもの。

優しさからくる、強さ

で、作品の話に戻ると、だからといって綾瀬はるかさん演じる朝日弁護士が、ゴリゴリの正義感女史かというと、全然違う。前田哲監督によるとこの主人公は綾瀬はるかさんへのあてがきであり、彼女が主演したことで、「人の痛みに寄り添う包容力と優しさを持ち、周囲を気遣いつつ、ピンチをチャンスに変えて前を向いていく、おおらかでちょっとあわてんぼうでお茶目な面がある」朝日弁護士になった、とか。

綾瀬さん自身も、「朝日弁護士はなんかこう〝やってやる!〟みたいな人じゃなくて、静かな、たおやかな中にそういう強さがある人。名声とかお金目当てじゃなくて、本当にその人のための、優しさからくる強さがある人だから、ステキだなと思いました」と言っている。監督はジュリア・ロバーツが主演した映画『エリン・ブロコビッチ』(2000)をイメージしていたというのを聞いて、思わず納得。見終わって、爽快感がハンパない。

綾瀬はるか 2
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「違和感を持つこと」

「本当に、男女問わず、みんなが平等に、気持ち良く働ける社会っていうものが、できたらいいですよね!」

そのための映画、でもある。

「朝日弁護士とか、そういう人たちが闘ってきたからこそ、よりよい社会になってきたんだと思います。コロナがあったりして在宅ワークが増えたりとか、働き方はどんどん変わってきているし。この先の未来でも、今のこの時代を振り返って〝え? こんなことがフツウだったの?〟って思うかもしれないし(笑)」

彼女自身、ホリプロタレントスカウトキャラバンをきっかけに、16才から働いてきた。

「私は別に、男女差別とか、お仕事の場で感じたことはありませんけど。共演の木村多江さんと撮影の合間にお話していたら、“そうそう、昔はこうだったのよー”って言ってました(笑)。そういう時代に、この映画みたいに闘ってきた人が実際にいたから、時代がこうやって動いたんですね。だから違和感を持つって大事なことだなって思いました。これがフツウだから、これが常識だからって諦めたり考えるのを止めたりすることもあるけど、“ん?”って、その違和感を大事にすることがまず一歩、踏み出すことにつながるのかなって」

ファーストボイス 4

そして一番大事なことは、本作が男女差別の問題だけを想定しているのではない、ということ。今だって、理不尽を感じている人はたくさんいる、男でも女でも。性別だけじゃない、学歴とか環境とか偶発的な状況で、不当な目に遭っている人はたくさんいるのだ。そしてそれは、明日の自分、かもしれない。

「朝日先生の最後の口頭弁論で、みんなに〝想像してみてください〟って言うところ、すごい好きなんです。どんな問題でも、他人事だと思うとそのまま関わらないで過ごしてしまうけど、もし自分の大事な人が、自分の家族がって思ったときに、果たして同じように何もしないで、何も言わないでやり過ごしてしまうのか。自分が同じ目に遭っても、果たして同じように受け流せるのか。そこが、一番大事なことかなって。その人の立場に立って想像するってことが、どれだけ大事なのか、あのシーンであらためて感じました」

ファーストボイス 5

この裁判が、どういう結末を迎えるのかは、見てのお楽しみ。

「あ、それと、この時代のファッションとかヘアとかメイクとか、すごいんです。ボリューミーで、すごくパワーのある時代なんですね。肩パッドとかボディコンとか、ハイヒールとか赤い口紅とか。音楽も今、昭和ポップスとか受けているじゃないですか。あのイケイケなエネルギー、なんて華やかだったんだろう! って。そんなところも、この映画で楽しんじゃってください!」

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綾瀬はるか

1985年生まれ、広島県出身。2000年、芸能界デビュー。映画『レジェンド&バタフライ』(23)『リボルバー・リリー』(23)『ルート29』(24)『人はなぜラブレターを書くのか』(26)『箱の中の羊』(26)TVドラマ『NHK大河ドラマ 八重の桜』(13)『義母と娘のブルース』シリーズ(TBS/18~)『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS/21)『元彼の遺言状』(CX/22)『ひとりでしにたい』(NHK/25)

映画『ファーストボイス』
10月2日(金)より公開

映画『ファーストボイス』

監督:前田哲
キャスト:綾瀬はるか ファーストサマーウイカ 松本穂香 峯村リエ 山田真歩 工藤阿須加 水川かたまり(空気階段) 鈴鹿央士 迫田孝也 酒向芳 木村多江 筒井道隆

バブル景気に沸いた時代、日本で初めて『ハラスメント』が法廷の場で裁かれた。原告側の弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)はどんな思いでその“勝ち目のない無謀な闘い”と言われた裁判に挑んだのか。上司の嫌がらせによって職場を追われた原告・上原恵(ファーストサマーウイカ)、朝日の事務所で働く若手弁護士・藤野栞(松本穂香)もまた、裁判を通じて成長していく。福岡セクシュアル・ハラスメント裁判に着想を得た、これはフィクション。とはいえ、弱者に寄り添う姿勢、あくまでも公平な視点を求める登場人物たちの姿は、今の私たちに必要ななにかを思い出させる。

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