2026.10.23
最終更新日:2026.10.23

復活男の真価は情けなさにあり|ロバート・パティンソン(1986年生まれ)【長谷川町蔵が勝手に選ぶ、世界のおじさん迷宮会】

『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』

『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』
配給:クロックワークス © 2025 DIE MY LOVE, LLC.

ロバート・パティンソン(1986年生まれ)
復活男の真価は情けなさにあり

ロバート・パティンソンの活躍が目覚ましい。何しろクリストファー・ノーラン監督がギリシア古典を映画化した『オデュッセイア』と、ドゥニ・ビルヌーブ監督によるSF三部作の完結編『デューン 砂の惑星PART3』という2026年公開を代表する超大作で、それぞれヴィラン役を任されているのだから。そんなパティンソンだが、10年前は俳優業からの引退まで考えるほどキャリアが低迷していた。

理由は“やせ我慢”だ。美形ヴァンパイアを演じた映画『トワイライト』シリーズでアイドル的な人気を獲得した彼だったが、シリーズ完結後に寄せられた出演オファーは安直なロマンティック・コメディばかり。「このままじゃダメになる」と考えたパティンソンは、低予算のインディーズ映画でクセのある役を演じるようになった。しかし、そうした作品の撮影環境は過酷だった。『グッド・タイム』では資金不足のため街中でゲリラ撮影を余儀なくされ、セリフを最小限に抑えたままアクションだけを撮る場面も少なくなかった。追い詰められた彼は、顔の表情と身体の動きだけで感情を表現する術を身につけていく。「すごい若手俳優がいる」。そんな評判は巨匠監督たちの耳にも届き、やがてスター俳優としての復活作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の主演へとつながったのだ。

そんなパティンソンだが、個人的にはヒーローやヴィランではなく、“情けない男”を演じたときに最も輝くように感じる。低迷期に培った、表情や身体だけで追い詰められた心理を表現する技術は、優柔不断で自信のない普通の男を演じたときにこそ生きるからだ。この路線の最高傑作が、ジェニファー・ローレンスと夫婦を演じた『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』。育児鬱で次第に狂気へと追い込まれていくローレンスを、ただおろおろと見守るしかない夫役がハマりまくっている。『ドラマなふたり』も最高。ゼンデイヤ扮するガールフレンドとの結婚式を心待ちにしていたはずの男が、その日が近づくにつれて逃げ出したい衝動に駆られていく。その焦燥感を、説明的なセリフに頼ることなく観客に伝え切る演技は絶品というほかない。

『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』

監督/リン・ラムジー 出演/ジェニファー・ローレンス、ロバート・パティンソン、ラキース・スタンフィールドほか

ジェニファー・ローレンス演じる若い母親が精神崩壊していく姿を描いたサイコドラマ。夫役のロバート・パティンソンは一見被害者だけど、自分の実家のそばに住んだり、勝手に犬を飼い始めたりと、やっちゃいけないことを全部やってる。悪いのはおまえだ!

長谷川町蔵

文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

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