これぞダイバーシティ。いろんな
ラーメン店の愛で方教えます



 『教養としてのラーメン』。タイトルだけ見ると、高尚でストイックな空気が漂ってきます。もちろん、ラーメンの歴史や製法に関するウンチクも多数紹介され、それはそれでなるほどねって感じで楽しめるのですが、この本はラーメンの知識を深めるだけの本ではありません。本書はラーメンとどう付き合っていくかというスタンスを教えてくれる本なのです。この本を読んでラーメン店に入る心構えが変わったと言っても過言ではありません! そして、ラーメン店で過ごす時間がより濃密な時間に変わるのです。本書のもう一つの大事な主張は、行列ができる店や、サイトで高得点を叩き出す店は、もちろん評価される理由があるわけですが、そうでない店だっていろいろと楽しむことができるんだってこと。醬油・味噌・塩から創作系まで、ダイバーシティを体現するラーメンならではの大事な教えです。



 一貫したメッセージは「ラーメンと会話しろ!」ってこと。インスタ映えを気にするラーメンマニアはレンゲがスープに入れられたままサーブされるのを嫌う傾向があると言います。写真を撮るのにレンゲは邪魔だってことなんですね。でも、レンゲをスープに入れた状況でラーメンを供するお店の店主は「レンゲがあったまった状況でスープを味わって欲しい」と思っているかもしれないと著者は言います。まさにこれはラーメンとの対話。丼の中の宇宙をどう解釈するか、京都で枯山水の庭に何を見るのかと同じ世界ですね。で、麺をどこから「抜く」のかが大事なんだと言います。最初に麺を食べる場所によってその後のラーメンの味はかなり変わってくるんだとか。たとえば胡椒をかけてある場所から麺を抜くとその味わいが丼に広まるわけですが、その展開を序盤に持ってくるか、後半に持ってくるか考えるべきだと。



 著者の青木さんは、「ラーメン凪」など有名ラーメン店50店舗以上のロゴデザインを手がけるデザイナー。デザイナーは対象のいいところを直感的に見抜く力を持っています。あらゆる店を楽しもうというこの本書の精神はデザイナーならではの視点でうまれたんじゃないかな。


BOOK

『教養としてのラーメン
ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス──50の麺論』

青木健著
光文社 ¥1,705

ラーメン凪をはじめ数々の有名店のロゴを手がけるデザイナーがラーメン店の楽しみ方を教える一冊。有名店だけでなく、街のラーメン店の楽しみ方が満載。メニュー表記を「××ラーメン」で統一するか、「××麺」で統一するかの違いから店主の性格を読み取ったり、券売機のボタンの位置を昼と夜で変える店からビジネスセンスを学んだり、ラーメン店の味わい方の多様性に気づかされる。まずは近所の店から攻略すべしとのこと。


嶋 浩一郎

1968年生まれ。博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO、編集者。本屋B&Bの運営にもかかわる。著書に『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』『アイデアはあさっての方向からやってくる』など。


Photo:Kenta Sato

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