木下古栗 (きのしたふるくり)

小説家。1981年生まれ。著書に『生成不純文学』『人間界の諸相』『サピエンス前戯 長編小説集』など多数。木下氏の短編「大量絶滅」が収録された『真藤順丈リクエスト! 絶滅のアンソロジー』が発売中。


チャーハンの達人


 読者の皆さん、おはよんにちんわ〜! 珍フルエンサーの栗美です。突然だけど皆さんは、パラパラはお好きかしら? とゆってもユーロビートに乗って踊る懐かしのアレじゃなくて、チャーハンのこと。実は私、YouTubeでチャーハンを炒める動画を観る趣味があって、それも町中華とかの、お店の厨房の調理の動画。そーゆーのをひたすら撮影してアップしてるチャンネルがあるの。プロでも炒め方、具材や調味料を入れる順番なんかに個性があって、それが観ていて飽きないのよね〜。たまに豪快にこぼしまくる料理人さんもいて、何だか痛快だったり。そしてお店のチャーハンってやっぱり、見事にパラパラ。中華鍋の上で米粒が躍ってる。



 そんなある日、いつものように新着動画を観始めた私の目が、スッと釘付けに。とゆーのもその料理人さん、今まで私が観てきたどのチャーハンの炒め方とも、明らかに違う…。炒めてる時間はほんの2分くらいなんだけど、まさに息を呑むほどの、研ぎ澄まされた美技…。思わず「この人、スゴい…」って呟いて、また最初から観て、そのまま結局、五回くらい連続で再生しちゃったの。※この連載のテーマの珍って、並外れてるっていう意味もあるわけだけど、まさに並外れたチャーハンの達人。でもその頃はコロナが悪さしてたから、訪問は自重したの。そして今回、情勢が落ち着いてきた頃合いを見計らって、実際にその美技を目撃させてもらいに行くことに。お店は江東区亀戸の「藤井屋」さんで、餃子専門店だけど、色々と中華メニューもあり。そこの店長さんが美技の使い手。



 で、何がスゴいかって言うと、最大の特徴として、本当に必要最小限の油しか使わないの。普通、お店のチャーハンって熱した中華鍋に油をお玉いっぱい入れて馴染ませて、その油をオイルポットに戻して、またお玉半分くらいの油とか、あるいはラードをたっぷり入れて、それで炒め始める。家庭とは違って、何でお店のチャーハンってパラパラになるかっていう話になると、大抵、火力と油の量が物を言うっていう結論よね。でも店長さんの場合、中華鍋に馴染ませた油を全部、お玉で搔き出すようにしてまでオイルポットに戻すと、もうそこに油は入れないの。これが驚き! ただひとつコツがあって、それは鍋肌に油膜を張る作業1を三回繰り返すことだそう。油を馴染ませてはオイルポットに戻してっていう、それを三回繰り返す。


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1熱した中華鍋に三度、油を馴染ませる。一度目はしっかり、二、三度目はさっとやる感じ。2卵二個を溶かずに入れて、黄身を崩しながら優しく混ぜる。


 そしてその次に、卵は溶いて入れる派と溶かずに入れる派があるわけだけど、店長さんは溶かずに入れて、それから少し混ぜる派2。この方が卵の香りが引き立って、しかもふわふわに仕上がるそう。で、普通は卵をちょっとお玉で搔き回したら、固まらないうちに素早くご飯を投入して、米粒にある程度、卵液をまとわせるようにしがちよね。少なくとも、私が観た範囲ではそういうやり方が多かったと思う。でも店長さんの場合、けっこう卵が固まるまで待って、いったん鍋を火から離して、ご飯を投入。その時、塩と味の素、少しのチャーシューと青いネギも加える。店長さん曰く、ドロドロの状態の卵にご飯が包まれちゃうと、直火で炒めた際に焦げやすくなっちゃう。油が少ないからくっついちゃうし、見た目にもよくないとのこと。


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3お玉の背で円を描くようにご飯をなで回す。4鍋を振り、米粒を飛び上がらせて直火で炙る。この時、お玉の位置はほぼ動かない。力の抜けた美しい所作。


 そしてその後、ガンガンご飯の塊を潰したり鍋を煽ったり、っていう豪快な技が繰り出されることが普通は多いんだけど、店長さんの場合、卵とご飯を一度だけひっくり返したら、お玉の背でひたすらご飯をなで回して、鍋肌の油膜に優しく押しつけるようにするの3。するとビックリ、この過程で既にかなりパラパラ。それから鍋の手前を持ち上げて、ようやくリズミカルに鍋振り。奥の方で米粒を躍らせて一粒一粒、丁寧に直火で炙る4。最後に白いネギを入れたら完成5。あっという間の、流麗な匠の技!


珍フルエンサー栗美_チャーハンの達人_05 珍フルエンサー栗美_チャーハンの達人_06

5完成!6「亀戸の餃子専門店 藤井屋」東京都江東区亀戸5の13の8 TEL:03-3683-1891 営業時間:11時〜23時30分 火曜休み


 店長さんは元々、中華街で働いていて、そこで三年間、チャーハンだけ炒めてた時期があったそう。その時、お玉半分の油の量を見て、これがお客さんの胃の中に入って大丈夫かなって心配になって、油を極力使わない炒め方を編み出した。実際に食べてみると、もちろん素晴らしくパラパラで、油のべとつきが全然ない。炒める時間が短いから、ご飯も絶妙にしっとり感が残ってる。一緒に餃子も食べたんだけど、おかずが中華らしく油っぽくても、これなら確かに胃に重たくない。飲んだ後の〆にもぴったり。シンプルの極み。



 ジューシーな黒豚餃子もオススメなので、是非食べに行ってみてね6。そして心の中でいいね&フォローよろしく。合言葉は#Oh珍々!


※「餃子の名店が作る王道のチャーハン ずっと見てられる鮮やかな鍋振り!」 https://youtu.be/bj0Nn8Rnl-E