チャレンジすること、続けることの
大切さを教えてくれる遅咲きの二人の偉人

開館55周年を迎えた広尾の山種美術館では、記念特別展として美術館創設者の山﨑種二と深い交流のあった日本画家・奥村土牛をフィーチャーした展覧会が開催されています。日本画家としては遅咲きの38歳で画壇デビュー。90歳を過ぎても初心を忘れることなく、101歳で亡くなるその直前まで絵筆を執り続けました。名は体を表す。「土牛」という雅号のとおり、牛歩のごとく画家人生を歩んだ人物です。


奥村土牛 《鳴門》
1959(昭和34)年 紙本・彩色 山種美術館


展覧会では、切手のデザインにも採用された《醍醐》を含む約60点の土牛作品が紹介されていますが、イチオシは鳴門海峡の渦潮を描いた《鳴門》。その迫力から「日本画を超えた日本画」とも評される代表作です。当時70歳だった土牛。船の上から渦潮の写生を試みるも、船は揺れに揺れ、写生どころか自分の身体を支えるのも困難なほどでした。そこで、彼は長年連れ添った妻に後ろから帯をつかんでもらい、船から身を乗り出して写生を続けたのだとか。70歳でのチャレンジ精神にも驚かされますが、何より老齢の妻に命綱を託したことに驚かされます!


アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《シュガリング・オフ》
1955年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)
© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY


さて、アート界で遅咲きといえば、砧公園内にある世田谷美術館に作品が一挙来日中のアメリカの国民的画家、“グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)”を忘れてはいけません! 人生の大半を農婦として過ごしたモーゼス。夫に先立たれた彼女が本格的に絵を描くようになったのは、70代半ばのことでした。近所のドラッグストアで自作のジャムと並べて絵を販売するも、独学で描く素朴な絵は見向きもされず、売れるのはジャムばかり。ところが、モーゼスが78歳のときに転機が訪れました。偶然やってきたとある美術コレクターがそれらの絵に惹かれ、すべて購入したのです。そこからはまさにシンデレラストーリー! 80歳でNYにて個展デビューしたのを皮切りに、全米各地で展覧会を開催。時の大統領トルーマンから表彰を受けたり、「TIME」誌の表紙を飾ったり。しかし、どれほど有名になっても、彼女は晩年まで堅実な暮らしを続け、絵を描き続けました。

ちなみにモーゼスが亡くなったのも土牛と同じ101歳。僕も含め読者の皆様、人生まだまだ折り返せてないようです。


『奥村土牛―山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾―』
【山種美術館】
東京都渋谷区広尾3-12-36
開催中~ 1 月23日 
TEL:050-5541-8600
https://www.yamatane-museum.jp/exh/2021/okumuratogyu.html

『グランマ・モーゼス展』
【世田谷美術館 1階展示室】
東京都世田谷区砧公園1-2
開催中~ 2月27日 
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.grandma-moses.jp/



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世界でただ一人のアートテラー。難解で敷居が高い美術のイメージを払拭すべく、元吉本芸人ならではの視点で面白おかしく美術の魅力を伝える。公式ブログはこちら


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