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『クライ・マッチョ』

監督・主演・製作/クリント・イーストウッド 
出演/エドゥアルド・ミネット、ナタリア・トラヴェン、ドワイト・ヨアカム、フェルナンダ・ウレホラ
2022年1月14日より全国公開
© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『グラン・トリノ』『運び屋』に続くクリント・イーストウッド監督&主演作品。近年は実話ものが続いていたが、新作では40年前のオリジナル企画が復活。元ロデオスターの男が孤独な少年を救出する仕事を任され、その任務を全うするまでを描く。冒頭の登場から、ラストシーンに至るまで男の艶っ気たっぷりで、優雅なロマンスさえある。まさにスターの独壇場。


老境に入った監督の静かな映画?
いえまさかのアンチエイジング作品です

初監督作『恐怖のメロディ』から50年。本作『クライ・マッチョ』は40作目。多いと言えば多い。が、もっと撮っていたような気もする。そんなクリント・イーストウッドは老境に入りそうでなかなか入らない監督。60代、70代に入っても特殊な屈折を感じさせ、ある種の加虐性、複雑な暴力性をはらんだ作品づくりを続けてきた。ところが、これはとても優しく静かな映画。え? なんで、いま?と思うほど、一瞬、文字どおりの老境を感じさせる。

驚かされるのは俳優としてのイーストウッド。91歳とは到底思えないほど堂々たる主演ぶり。スター映画と言ってもいい。すごくよくて、そしてうまい。演技の内容より、俺の顔に刻まれた年輪を見よ、というような老優が多い中、芝居への意欲にあふれ、ちょっとした表情もきまっていて、動きも確か。よくよく考えてみれば、これは老人の物語ではない。せいぜい50代の役。つまり、まさかの実年齢より40歳近く若い役をやっている。しかも余裕で。企画自体40年前から寝かせていたものとのこと。つまりイーストウッドは時を超えている。例えばこれで引退…ともなれば、最後に初めてしんみりした作品を撮ったねともなるが、どう見たって、これで終わりには見えない。あと10本くらいは撮れそう。そして次の作品は、ひょっとしたら、またしても屈折と暴力性に満ちた反動的な映画になるかもしれない。いやそんなことをしてもおかしくない、そう思わせる。

まさかのアンチエイジング。異様なタフネス。まったく枯れていないパワフルさ。その姿勢はマッチョイズムが批判されていなかった40年前を舞台に据え、そのうえで『クライ・マッチョ』というタイトルの映画を撮る不敵な構えにも表れている。これで引退か、それとも次回作で10倍返しか。ハラハラせずにはいられない。(談)


菊地成孔
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
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Text:Toji Aida