変人発明家と家族の逃亡を描く
娯楽性抜群のヒューマンドラマ

『モスキート・コースト』は’80年代にベストセラーとなった米の作家ポール・セローの長編小説。ハリソン・フォード、リヴァー・フェニックス共演の映画版は現代文明批判を前面に打ち出した骨太な秀作だったが、今回のドラマ版は文芸ものというよりも、エンターテインメント性も重視した、原作や映画とはかなり異なるアプローチの映像化となっている。

物質主義を嫌う、優秀だが変人の発明家アリーとその家族。ある理由により米政府から逃れることとなったアリー一家は、自由を手にするためメキシコへの危険な旅に出る。奇妙な発明で特許を目指すも貧乏暮らし、子どもたちには学校も携帯電話も禁じるほど管理社会に背を向ける主人公アリー。己の信念にこだわり周囲を振り回し続けるこの迷惑極まりないキャラクターに、「共感する」という人はまずいないだろう。だが、この人物像こそ物語の面白さの核であり、最初は戸惑うであろう視聴者も、徐々にアリー一家の運命から目が離せなくなるはずだ。

今作は特異な思想をもつ男と、なにやらワケありの過去をもつ妻、ティーンエイジャーの娘と息子との関係をじっくり見つめる家族のドラマであり、同時に国家安全保安局のエージェントや麻薬カルテル、冷酷な殺し屋からの必死の逃亡を描くスリリングなロードムービーでもある。執拗な追跡をぎりぎりのところで逃れる展開には、毎話ハラハラさせられ飽きることはないし、持ち前の頭のよさと機転で危機を乗り切るアリーもどこか憎めなくなってくる。この優れた娯楽性はドラマ版ならではの特徴と言っていい。

一方、テーマ的な部分は主人公の言動に凝縮されているかもしれない。家族に対し支配的に振る舞い、異なる価値観を認めようとしないアリーは、実は彼自身が忌み嫌う、傲慢な近代アメリカ国家そのものの象徴なのだ。シーズン1は、一家が文明社会から逃れ南米の大自然へと向かうところで「続く」となるが、アリーの抱える矛盾が今後物語の中でいかに作用していくのか、また隠されたままの多くの謎がどう明かされるのか、実に楽しみだ(シーズン2の製作も決定!)。


「モスキート・コースト」
原作/ポール・セロー 監督/ルパート・ワイアットほか 出演/ジャスティン・セロー、メリッサ・ジョージ、ローガン・ポーリッシュ

あるアメリカ人家族の逃亡生活を描く異色のヒューマンドラマ。主演ジャスティン・セローは原作者の甥。監督は『囚われた国家』のルパート・ワイアット。Apple TV+「モスキート・コースト」全7話配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。


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