――椿鬼奴さんといえば芸能界きっての『鬼滅の刃』ファンであり、南信長さんはマンガ解説者として本誌をはじめ各媒体で執筆されています。今回はそれぞれの立場から『鬼滅の刃』の魅力を語っていただこうと思うのですが、まず鬼奴さんは2016年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まったときから読んでいるんですよね。

椿 そうなんです。「ジャンプ」を毎週買っているので、連載が始まったときから読んでいて、もう1話目から面白かったですね。初めはほんわかして見えたんですけど、主人公の炭治郎の家族が惨殺されて、妹の禰豆子が鬼になって、義勇さんに殺されそうになったけど助かって、というふうに話が進んでいくので、最初からとにかく目が離せない感じでした。

 テンポも速いし、展開も速いんですよね。鱗滝との特訓もあっという間だし、箸休めエピソードがすぐ終わる。物語が寄り道せずにほぼ一直線で進んでいくから、ページをめくる手が止まらないんですよ。

椿 出し惜しみしてないですよね。鬼舞辻無惨が自分の手下である下弦の鬼をほぼ皆殺しにしたときはビックリしましたもん。あれは鬼殺隊が少しずつ倒していくものだと思っていましたから、十二鬼月のうちの半分を一気に消したときは「殺すんかい」って。

 スピード感でいうと、コマとコマの間の省略がみごとなんですよね。1巻で禰豆子が鬼の首を蹴り飛ばすシーンがあるんですけど、その前のページでは炭治郎が鬼に押さえつけられていて鬼の顔でコマが終わる。次のページをめくると、いきなり禰豆子が鬼の首を蹴り飛ばしてしまっているんですよ。

椿 ここ、面白かったですよね。

 このコマに代表されるコマの省略とめくりの効果が、マンガならではの表現としてすごくスピード感を生んでいます。ノーモーションのパンチのようにキレがいいんですよね。


「つらいときは炭治郎のことを思って乗り越えてきた」
椿 鬼奴(芸人)



【炭治郎のド天然!】が好き!

「実弥がおはぎ好きだということを義勇さんの前で言うシーンとか、あそこはすごく好きですね」(鬼奴さん)



――『鬼滅の刃』はキャラクターの人気も高いです。お二人はどのキャラが好きですか?

椿 私はやっぱり炭治郎ですね。もうずっと炭治郎が好きで、こんな子どもが頑張っているんだから、私も頑張らなきゃといつも思っています。「世界の果てまでイッテQ!」で死ぬほどツラいロケがあったときは、炭治郎の気持ちを思って、「水の呼吸」を真似したりして乗り越えました。炭治郎にはほんとものすごい助けられてます。

 僕は伊之助が面白くて好きで、あとはカナヲもいいですよね。カナヲが上弦の鬼の童磨に対してめちゃくちゃ毒舌を吐くじゃないですか。あの毒舌がすごくいいなと思って。カナヲもそうなんですけど、言葉が強いんですよね、『鬼滅』の人たちって。

椿 強いですよね。義勇の「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」とか。

 このせりふが1話目で出てきますからね。

椿 そうかと思えば、すごく笑えるシーンもたくさんあって。私は戦いの合間の訓練シーンが好きなんですけど、戦いのときにはわからない柱のキャラの面白さがそこで垣間見えたり、炭治郎のド天然ぶりとか、善逸と伊之助のちょっとおバカなやりとりで笑ったりできて、その緩急がいいんですよ。

 ものすごい死闘を演じている中でもちょっとギャグが挟まっていたりしますからね。“うつ展開”がないんですよ、『鬼滅』って。古い話で恐縮ですけど、例えば『あしたのジョー』だったら、ジョーがテンプルを打てなくなってドサ回りするようになるとか、そういううつ展開がある。それによって物語に起伏が出るからいいんですけど、読者はやっぱりそこを読んでいるとつらくなっちゃうというのはあって。でも、『鬼滅』の場合はほぼそれがない。炭治郎は、肉体はすごく傷つくんだけど、精神は傷つかないんですよ。

椿 しかも、優しいんですよ、炭治郎は。累との戦いの場面で、義勇さんが死んだ累の服を踏みつけるシーンがあって、そこで炭治郎が「自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない」「足をどけてください」と言うんです。鬼のほうにも鬼になった理由があって、その悲しさを炭治郎はわかるんですよね。鬼を倒すことは正義なんですけど、見方は一つではないってことを気づかせてくれるというか。そういうところもすごいなって思います。

 鬼は社会の矛盾や理不尽の象徴なんですよね。炭治郎のせりふで、「強い者は弱い者を助け守る。そして弱い者は強くなり、また自分より弱い者を助け守る。これが自然の摂理だ」というのがあるんですけど。

椿 猗窩座に言ったやつだ。

 そうです。自分だけのためじゃなく、周りの人だったり、次の世代のために未来を切り開くみたいな精神、それって言ってしまえば今の日本に欠けているものだと思うんですけど、そういうメッセージが語られている感じはしますよね。

椿 だから、『鬼滅の刃』って大人が読んでもハマるんだと思います。


「うつ展開がほぼないんですよ、『鬼滅』って」
南 信長(マンガ解説者)



【カナヲの毒舌!】が好き!

「物静かでおとなしそうな普段の姿とのギャップ。冷たい言い方で毒舌を吐くところがいいんですよね」(南さん)




コマの省略によるテンポ感!

ストーリーを面白くしている要素の一つにテンポのよさがある。1巻に登場するこの場面は、前のページで炭治郎が鬼に押さえつけられていて、鬼の顔でコマが終わり、めくった次のページで禰豆子が鬼の首を蹴り飛ばしている。何の予備動作もなくバーンとくるから驚きも大きい。この演出は他の戦闘シーンでも頻出。


せりふが強い!

魅力的なキャラクターや迫力ある戦闘シーンだけでなく、名言が多いところも『鬼滅の刃』の特徴。「いいことを言っているから、自分でも使いたくなるんですよね」(鬼奴さん)。


正義の見方は一つじゃない!

家族や仲間を殺された者たちにとって鬼は憎い存在だが、鬼の側にもダークサイドに堕ちていった理由があり、それを知ることで見方は一つではないということに気づかされる。想像力を働かせること。『鬼滅の刃』から学ぶことは多い。


ONIYAKKO TSUBAKI

1972年生まれ。NSC東京校を卒業後、26歳で芸人デビュー。アーティストとして参加した藤井隆全面プロデュース・アルバム『SLENDERIE ideal』が10月28日にリリースされる。

NOBUNAGA MINAMI

1964年生まれ。本誌をはじめ、朝日新聞など各紙誌で執筆。主な著書に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』などがある。2015年より手塚治虫文化賞選考委員を務める。

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Photo:Kanta Matsubayashi
Text:Masayuki Sawada

©吾峠呼世晴/集英社