SUN/kakke(サンカッケー)デザイナーの尾崎雄飛さんと、愛車の1990年型シトロエンCX 25TGI サファリ。尾崎さん憧れのシトロエンDSの後継モデルとして、1974年にデビューしたモデルだ。


旧車に乗れるのは、あと何年?

SUN/kakke(サンカッケー)デザイナーの尾崎雄飛さんが「シトロエンCX 25TGI サファリ」に乗るようになったのは2017年。ただし尾崎さんとシトロエンとの付き合いは古く、18歳で免許を取得して初めて購入したクルマが「シトロエン2CV」だった。クルマ好きが「二馬力」や「ドゥシーボー」と呼ぶこのクルマとの出会いは、フランス映画だった。

「もともと映画に出てくるクルマが好きでしたが、手の届く価格だと2CVかルノー キャトルぐらいしか選択肢はありませんでした。2CVを買って、ロンドンに留学していた時期を挟んで3〜4年は乗りました。でも、フランス映画にしばしば登場するシトロエンDSというクルマに憧れがあって、“いつかはDS”と思うようになったんです」

2012年に独立して自身のブランドSUN/kakkeを立ち上げると、納品や倉庫への行き来などで、クルマが必要となった。そこで尾崎さんは、社有車としてフォルクスワーゲンのビートルを導入した。

「物を運ぶにはワンボックスが一番便利だということはわかっていたのですが、デザイナーという仕事を考えるとどうなのかな…と。ですが、ビートルだと積載できる量がやはり足りなかったので、新たな社有車選びが始まりました。最初は、シトロエンは選択肢から外していたんですよ。ハイドロニューマチックサスペンション(編集部註:ガスとオイルを組み合わせたシトロエン独自のサスペンションシステム。一般的な金属バネのサスペンションとは異なる、独特の乗り心地を提供する)は、トラブルが心配でしたから…」

そんな折り、とあるショップのwebサイトでこのシトロエンCXを発見。尾崎さんが憧れていたDSの後継車種だということもあり、しばらく悩んだという。

「いろいろ考えましたが、旧車に乗れるのもあと20年ぐらいかなと思うと、いろんなクルマに乗っておきたいな、と。でもこのクルマを好きになり過ぎて、3年半も乗っているわけですが(笑)」


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(1枚目から右へ)
・シトロンCX は1974年以来、17年間にわたって生産された。尾崎さんのCXは最終型で、右ハンドルのイギリス仕様。
・手元の資料によれば、1975年当時に日本で販売された2.2ℓエンジン搭載のセダンは、398万5000円だった。
・クルマに興味がない人でも、一度見たら印象に残る個性的なフロントマスク。
・シトロエンの最大の特徴のひとつ「ハイロドニューマチックサスペンション」。エンジン停車時にはこのように車高が下がるが、エンジンをかけると油圧により車高が上がっていく。
・荷室の広さは圧倒的。「撮影直前まで、イベント用の天板を載せていました」と、尾崎さん。
・「クルマ業界の用語で、直進安定性が高いと表現することがあります。このクルマの持ち味がそうなのですが、直進安定性を一番発揮するのが高速道路で巡航する時だと思います」


このクルマを次の世代に継承したい

こうして尾崎さんの元へやってきたシトロエンだが、最初の1年間は修理に次ぐ修理で、かなり苦戦したという。前述のハイドロニューマチックサスペンションの油圧システムが、かなりの難物だった。

「油圧システムはLHMというオイルで作動するのですが、このLHMがホースから漏れるんですね。1ヵ所を塞ぐと、今度は圧がかかってまた別の場所から漏れる。このイタチごっこでした(笑)。

ただし本当に苦しんだのは最初の1年で、ここでトラブルが出尽くした後は、「結構いいコですよ」とのことだ。

「やっぱり魅力はハイドロニューマチックサスペンションの、魔法の絨毯のような乗り心地ですね。ビューンと矢のように真っ直ぐ走るから、高速道路が楽しいです。出かけた先でこのクルマを停めた駐車場に戻ると、本当にカッコいいなぁと、惚れ惚れします(笑)」


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(1枚目から右へ)
・いま見ても古臭いと感じないどころか、未来的な雰囲気を漂わせるインテリア。ステアリングホイールの形状が個性的。
・外観だけでなく、スイッチ類が左手を伸ばしたこの位置にあるインテリアのレイアウトも独特だ。
・いかにもシトロエンらしい、ふんわりとした掛け心地のシートもこのクルマの魅力。シートだけ外して、最新のクルマに使いたくなる。
・運転席と助手席の間に設置されたオーディオシステム。音楽を聞く環境はしっかりと整っている。
・荷室専用のクーラーは、前オーナーが取り付けたものだという。すこぶる効くとのこと。
・初めて乗る人は、異口同音に「どうやって開けるの?」と尋ねるという。ドアノブが見当たらないが、ドアハンドルを握った時に、指先で銃のトリガーを引くような位置にノブがある。


尾崎さんのシトロエンCXを拝見して気付くのは、細部まで手入れが行き届いているということだ。そう伝えると、尾崎さんは「ヘンな整備はしたくないんですよ」という言葉を返した。

「僕は古着や骨董も好きで、骨董の世界では“預かる”という表現を使います。自分の所有物ではあるけれど次の世代に引き継ぐべきものという意味ですね。このシトロエンも同じで、代々のオーナーが大事に乗ってきたものを、いい状態で次の世代に伝えたいと思っています。だからケチな修理、整備はしたくないですし、なるべくオリジナルの状態を保つように心がけています」

尾崎さんはシトロエンCXのオーナーであると同時に、その魅力を次代に伝える役割も担っているのだ。確かに、このクルマには、後世に残したいと思わせる魅力がある。



尾崎雄飛/SUN/kakke(サンカッケー)デザイナー
1980年、愛知県に生まれる。17歳で高校を中退した後、19歳からロンドンへ留学。帰国後、セレクトショップのバイヤーとして勤務した後、2007年にフィルメランジェ(FilMelange)を立ち上げる。2011年に独立、2012年より自身のブランドSUN/kakkeをスタートさせる。


Photos:Yasuhiko Roppongi
Text:Takeshi Sato