2026.01.25
最終更新日:2026.01.25

【A.ランゲ&ゾーネ】手巻きクロノグラフに触れる【UOMO Watch Academy Vol.5】

クロノグラフは定番機構だが、それが“手巻き”になると、話が変わってくるらしい。ウォッチディレクターの篠田さんから、その魅力を学んだ。

手巻きクロノグラフに触れる

並木一樹さんプロフィール画像
美容師
並木一樹さん

中目黒のヘアサロン、CASIを主宰。ファッションや時計、インテリアにも精通。最近はバイクにもハマっており、英国車「トライアンフ」に乗っている。

水澗 航さんプロフィール画像
ENKEL 主宰
水澗 航さん

多くのファッションブランドのPRを手がけながら、2019年にギャラリーショールーム、エンケルを立ち上げ、クラフトや家具にも精通。大のランゲ好き。

A.ランゲ&ゾーネ 1815
1845年に創業したA.ランゲ&ゾーネは、ドイツ高級時計の歴史をつくってきた名門。創業者であるフェルディナント・アドルフ・ランゲの生誕年を掲げる「1815」は、アラビア数字のインデックスが特徴。

進化とは無縁の味わいを楽しむ
時計界の“シーラカンス”

機械式時計の基本メカニズムは、約400年前に完成したとされるが、それ以降も小型化など常に改良を重ねてきた。クロノグラフも進化の著しいジャンル。17世紀の中頃に計測機器として生まれたクロノグラフは、1910年代には腕時計にも搭載されるようになる。しかし当時の動力ゼンマイの巻き上げ方式は、手巻きだった。

可動部が多いクロノグラフ機構を正確に動かすには、ゼンマイのトルクを安定的に引き出す必要がある。つまり人間の動きに合わせてゼンマイを巻き上げ続け、動力ゼンマイを常にフル巻きの状態にキープできる自動巻き式こそが理想だ。しかし実際には、ただでさえパーツの多いクロノグラフに巻き上げ機構を加えると、かなり時計が厚くなってしまう。そのため各社はパーツや構造を簡略化して厚みを抑え、1969年にようやく待望の自動巻きクロノグラフが完成。そして現在では、定番機構として人気を集めている。

1815 クロノグラフ
手巻きクロノグラフムーブメントを搭載する「1815 クロノグラフ」は2004年のデビュー以来、時計愛好家たちの憧れとなっている。手巻き。18KWG。ケース径39.5㎜。¥12,197,900/A.ランゲ&ゾーネ

篠田 実用的で高性能な自動巻きクロノグラフのおかげで、クロノグラフはすっかり市民権を得ました。しかし計測機器としての性能や機能性を最優先したムーブメント設計であるため、味わいに欠けるのも事実。そこに物足りなさを感じる時計愛好家たちが注目するのが、かつての雰囲気を残す手巻きクロノグラフです。その魅力は“美しいこと”に尽きる。その代表格がドイツの名門A.ランゲ&ゾーネの「1815 クロノグラフ」です。

並木 クロノグラフ=スポーツウォッチという印象でしたが、ドレッシーなデザインやダイヤルの白×青の色合わせが素敵ですね。

篠田 手巻き時代のクロノグラフは、医師の脈拍計測用の機器としても使われました。このモデルにはその名残として、パルスメーターという目盛りもついています。

水澗 クロノグラフとしてはすっきりとしたデザインですし、ケースもコンパクトで薄型なので、腕への収まりも素晴らしいですね。

シースルーバックから見えるキャリバーL951.5
シースルーバックから見えるキャリバーL951.5は、重層的に積み上がるパーツで奥行き感を演出しており、あらゆる角度から眺めたくなる。

篠田 でも本当の見どころは、このムーブメント。自社製のキャリバーL951.5は、パーツ点数が306個。そのすべてが手作業で仕上げられています。

水澗 うわっ、この奥行き、すごいですね。

並木 この小さな時計の中に、精密な機械がギッシリ詰まっている。

水澗 パーツのエッジ部分まで完璧に磨いている。これって職人さんの手仕事ですよね。どうやって磨いているんだろう。

タブレットを使ってレクチャー
あまりにもムーブメントの仕上げが細かいため、篠田さんはタブレットを使ってレクチャー。熟練職人の手仕事から生まれるパーツのエッジ磨きや、穴石を留めるシャトンなど、この時計を構成するすべてが美しい。

並木 先ほど資料として見せてもらった1930年代のクロノグラフムーブメントに通じる美しさがありますね。現行モデルでありながら、レトロな味わいがあるのがうれしい。

篠田 曲線を生かした有機的なデザインのパーツは、細くて立体的。ヴィンテージウォッチのようにロービート仕様になっており、心臓の鼓動のようにゆっくりと時を刻みます。

水澗 本当だ。このゆっくりとした動きが、見ていて心地よいですね。

コラムホイール
コラムホイールというパーツによるプッシュボタンのカチッという感触は、この時計の魅力でもある。参考のために用意した自動巻きクロノグラフはカム式という制御方法を用いるが、プッシュボタンの感触がまったく別物。ボタンの押し心地一つをとっても、語れることがある時計なのだ。

篠田 ぜひクロノグラフも動かして、プッシュボタンの押し心地を体験してください。

水澗 おお。カチッと軽やかですね。

並木 クルマやバイクのシフトレバーのように、カチッと収まる感触ですね。

篠田 これは、クロノグラフ機構の制御にコラムホイールというパーツを使用しているから。パーツは厚みがあり、高い工作精度も要求されますが、このタッチの軽やかさを知ってしまうと、もう戻れません。

水澗 オーナーじゃないとわからないこだわりですね。ずっと触れていたくなります。

水澗さんと並木さん
「とてもきれいな時計ですが、説明を聞くとさらに深い魅力がわかりますね」と水澗さんも満足。並木さんも「この時計、いつか買いたいです」と、大いに魅了されていた。

並木 感動的です。時計の佇まいは品があってモダンですが、中にはレトロな機械が詰まっている。ロマンのある時計ですね。

篠田 というか、ロマンしかない。こういう古典的な機構を、今でも大切に守っていこうという心意気を楽しむ時計。それが手巻きクロノグラフなんです。

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