2026.01.24
最終更新日:2026.01.24

グランドセイコーの故郷、雫石を訪ねて【UOMO Watch Academy Vol.4】

時計が生まれる場所を見たい。そんな思いをかなえるために、「グランドセイコースタジオ 雫石」を訪ねた。そこには、美しい自然があり、理念をもった職人たちがいた。

グランドセイコーの故郷、雫石を訪ねて

小林新さんプロフィール画像
スタイリスト
小林新さん

ヴィンテージウォッチを中心に収集する時計好きの顔をもつ。いつかはスイスの時計工房を訪ねることが目標。

グランドセイコースタジオ 雫石と小林新さん

2020年にオープンした「グランドセイコースタジオ 雫石」は、日本を代表する建築家、隈研吾氏が設計を担当。木造建築でありながら、組み立てのためのクリーンルームに埃や塵がたまりにくくするため、水平でない「登り梁」を採用するなど、構造設計的にも価値のある建物であり、建築ファンからも注目されている。

精密で美しい時計が生まれる場所

広報スタッフの説明を聞きながら、熱心に展示を眺める小林さん
広報スタッフの説明を聞きながら、熱心に展示を眺める小林さん。

人、環境、技術、文化、熱意。
すべてが揃って、時計が生まれる

高級時計は製造工程の多くで人間の手がかかわるため、どこで誰が製造しているかが、製品に反映される。グランドセイコーは世界に誇れる「日本の時計」だが、その機械式モデルは岩手県の雫石町でつくられている。

岩手県盛岡市から車を走らせること、約30分。近くには政財界の大物が開いた日本最大の民間総合農場、小岩井農場もあり、豊かな自然が残るエリアに「グランドセイコースタジオ 雫石」がある。

ここはブランド設立60周年の節目にオープンした、グランドセイコーの機械式モデル専用のマニュファクチュールであり、隣接する製造棟でつくったパーツを組み立て、調整し、精度チェックを行い、ケースに収めて出荷するという工程を行っている。

「なんかのんびりしたいい場所ですね」とスタイリストの小林新さん。以前から時計製造の現場が見たいと話していたが、ついに念願かなってこの地に降り立った。

建物は、建築家の隈研吾氏が設計。屋根を大きく跳ね上げることで外の景色を内部に取り入れ、大型窓や床と外の芝の高さを合わせることで境界を曖昧にし、自然と調和させる。

ムーブメントの仕上げをキズミ(ルーペ)で鑑賞できるセットも用意
ムーブメントの仕上げをキズミ(ルーペ)で鑑賞できるセットも用意される。

まずはエントランスホールの展示を見学。グランドセイコーの歴史や過去の傑作だけでなく、製造しているムーブメントやそのパーツも展示されている。

「シースルーバックからムーブメントが見える時計もありますが、こうやってパーツまでバラバラな状態を見たのは初めて。ネジなんて、想像以上に小さい…。これを人間の手で組み立てるなんて、自分には無理だなあ」小林さんもウォッチメイキングの世界にのめり込んできたようだ。

長く延びた廊下。そこに面するクリーンルーム(組立工房)
長く延びた廊下。そこに面するようにクリーンルーム(組立工房)があり、時計師が仕事をしている様子を見学できる。内装に使っている木材は、国産のものも生かされている。

「グランドセイコースタジオ 雫石」は、訪問者が組み立て工程を見学できるように設計されている。長い廊下に面したクリーンルーム(組立工房)では、時計師たちがムーブメントの組み立てや針の取り付けなどを行っている様子が見える。その表情は真剣そのもので、厚いガラス窓のこっち側にいるわれわれも、つい息をひそめてしまう。

クリーンルーム
廊下の見学エリアからクリーンルームを見る。時計師の作業机は、地元「岩谷堂簞笥」に特注したもの。机の列に合わせて作業工程を分けることで効率を高める。素晴らしい時計の伝統を継承するために、人材育成にも力を入れる。

コロナ禍明けから本格的に見学者の受け入れを始めたが、あっという間に予約枠は埋まっていく。しかも外国人観光客も多いという。これだけ間近に、世界最高峰の時計づくりの現場を見られるのだから、時計愛好家にとってはたまらない経験になることだろう。

ゆっくりと時を重ねる、周囲の自然たち

人気ダイヤル「白樺」のモチーフになった白樺林
人気ダイヤル「白樺」のモチーフになった白樺林は少し離れた平庭高原にあるが、スタジオの周辺にも白樺が自生している。

豊かな自然の中から美しい時計が生まれる

工房内の見学を終えた取材チームは、スタジオの周辺を歩く。「グランドセイコースタジオ 雫石」の周辺は、意識的に雑木林が残してある。それは、この場所が里山と湖を移動する動物たちの動線にあたることがわかったから。木々を残すだけでなく、そこで暮らす動物たちの生態系も考えながら、持続可能な環境をつくり、維持していく。それも彼らの役目なのだ。そのおかげで、ニホンカモシカやタヌキといった野生動物が遊びに来ることも少なくないそう。

インセクトホテル
敷地のいたるところに設置されているのは、「インセクトホテル」と呼ばれる虫たちのためのすみか。

また雫石周辺の水辺の環境を保全するための試みとして、動植物や虫たちが暮らすビオトープを、岩手県立大学と協力して開設。きれいな水をたたえた池は、昆虫や鳥たちの休憩所にもなっている。

ビオトープを散策する小林さん
ビオトープ(正式名はわくわくトープ)を散策する小林さん。その先に見えるのは、標高2038mの岩手山。12月に入ると本格的に積雪し、冬の訪れを告げる。

そして遠方に目を向ければ、雄大な岩手山の姿が目に飛び込んでくる。グランドセイコーでは、自然の情景を型打ちダイヤルで表現するデザインも人気が高い。そういった考え方は、美しい自然に囲まれたこの地だからこそ生まれたのだろう。

ビオトープ
ビオトープでは岩手県立大学と協働して、春・夏・秋の年3回、水辺を中心とした生物の生息状況を把握するための調査が行われる。

「ここは“時計をつくるための場所”だと思っていましたが、大学や地域を巻き込み、周辺環境も含めて、もっと広い視点で物事を考えている。スタッフの方が、“部品づくりから人づくりまで”とおっしゃっていましたが、まさにそういう場所なんですね」

世界でここでしかできない特別な体験

時計師気分を楽しむ小林さん
時計師気分を楽しむ小林さん。かなり細かい作業に四苦八苦。

時計という感動を生み出す場所

散策を終えると、「グランドセイコースタジオ 雫石」の2階にあるラウンジへ。ここにはクリーンルームと同じ素材の作業机があり、時計師気分が味わえる。小林さんには、簡単な分解・組み立てを体験してもらった。

グランドセイコースタジオ 雫石 オリジナルウォッチ SBGH373
ここでしか購入できない「グランドセイコースタジオ 雫石 オリジナルウォッチ SBGH373」。搭載するムーブメントは、ここで生産されるハイビート式のキャリバー9S85。ローターもオリジナル。

「時計は好きだし、組み立ての動画なんかも見ますが、実際に現場を見て手を動かしてみると、その作業の難しさに驚かされます。でもここで働く人たちは、鍛錬を重ねることで、こういった技術を習得したわけですよね。それってもはやアスリートに近い。もう尊敬しかないです。ファッションスタイリストという仕事の場合、どうしても、デザインや色、質感など表層的な部分が重要になってきますが、グランドセイコーがつくられる現場を見ると、もっと深い部分で考えられているのがわかった。時計師の方たちにとっても、『グランドセイコースタジオ 雫石』で仕事をするのは、誇らしいことだと思う。仕事に誇りをもっていなければ、人を感動させる時計をつくることはできないでしょう」

スタジオ周辺の森の新緑をイメージしたグリーンカラーダイヤルに、縦のストライプ模様が施されている
スタジオ周辺の森の新緑をイメージしたグリーンカラーダイヤルに、縦のストライプ模様が施されている。自動巻き。エバーブリリアントスチール。ケース径40㎜。見学者限定販売。¥968,000/グランドセイコー(セイコーウオッチお客様相談室)

グランドセイコーの時計が、なぜ世界中で評価されるのか。「グランドセイコースタジオ 雫石」の自然環境、設備、技術、そして人。そのすべてが理由なのだ。

グランドセイコースタジオ 雫石

グランドセイコースタジオ 雫石

岩手県岩手郡雫石町板橋61-1 盛岡セイコー工業内
TEL:019-692-5863
電話受付:9時30分~11時30分、12時15分~16時
※完全予約制(https://gs-studio-shizukuishi.resv.jp/

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