2024.09.24

【アディダスのスタンスミス フライツァイト】茶色いスニーカーの意味は?|教えて! 東京スニーカー氏

アディダスのスタンスミス フライツァイト
スニーカー¥19,800/アディダス オリジナルス(アディダスお客様窓口)

風合いのあるタンブルレザーのアッパーはまさにブーツっぽいムード。ライニングも革だから高級感もひとしお。パーフォレーションで3本線を表現するスタンスミスは、ある意味革靴に変装するにはもってこいの一足だと思う。この野暮ったいブラウンもオジ顔で好み。

茶色いスニーカーの意味は?

 僕がヴィンテージスニーカーに開眼したのは高校1年生のとき。お金がなかったので、雑誌に大きく掲載されるような人気のヴィンテージは手が出ませんでしたが、地元近くの柏や上野の古着店を徘徊したり、日曜の朝4時30分の電車に乗って代々木公園や今はなき明治公園のフリマに行ったりしてコツコツと集めていました。ある日、NIKEのコルテッツだと思い込んで買った、茶色い革製のランニングシューズがありました。しかしそれは調べていくと「ル・ヴィラージュ」という名前でした。’70年代後半頃のモデルで、前期型は白いスウッシュで、後期型がアッパーと同色のブラウンだったはず。そして僕が持っているのは、比較的見つけやすいと言われる後期型でした。

 この仕事を始めて情報が増えていくとこれはランニングシューズではなく、余暇を楽しむためのカジュアルシューズとわかりました。つまり革靴を普段履いている人に買ってもらうための茶靴だったんです。当時はスポーツ以外でランニングシューズを、ましてファッションとして履く人なんてまずいなかった。ワークアウト以外は基本的に革靴。そんな時代に、休日のレジャーにNIKEを選んでもらおうと画策したのが、アイコンであるコルテッツの見た目で作ったレザーシューズだったのです。トラッドでもスポーツでもない、カジュアルなレザースニーカー。のちにテイルウインドという初のエア搭載シューズが1978年に誕生するのですが、ル・ヴィラージュと同じコンセプトでエア レジャーという茶色のシューズがリリースされます。それは今でも復刻してほしいと願う、僕にとっての傑作です。

 今月号のスニーカー特集のネタ集めに1カ月半くらいを要しましたが、候補の一つに入っていたのがこのアディダスのスタンスミス フライツァイトでした。ドイツ語の「FREIZEIT」の意味はレジャー。アディダスの’70年代のアスレジャーカタログから着想を得たようです。アッパーはスタンスミスで、革靴みたいにゴツゴツさせたラバーのアウトソールを使用しています。これもまさに休日にスニーカーを履いてほしいという当時のコンセプトに倣ってデザインされたのでしょう。

 40代がスタンスミスに絶大な信頼を置くように、いま20代も同じ気持ちかと言われたら多分そうではない。むしろ空前のサンバブームで「adidas=フットボールシューズ」のイメージが強くなりすぎて、スタンスミスのことをよく知らないと思う。さらに若者の足元は革靴にトレンドがシフトしています。そんなとき、このシューズを見て「革靴みたいでカッコイイ」と手を出してくれたらラッキーです。興味の入り口は世代や時代によって変わっていくもの。革靴好きがスタンスミス、いやスニーカーを好きになるきっかけの一足になるかもしれない。過去から現在につながるストーリーがあれば、スニーカーは楽しい。そんな思いで自分の記憶を辿りながら16ページをつくりました。ぜひ読んでくださいね。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。

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