大人を癒やしてくれる素材の筆頭、カシミヤ。ただ、本当の意味でのすごさを僕たちは知っているのだろうか? 生産背景から、どういった技術が使われているかまで、注目の4ブランドのデザイナー・ディレクターに聞いてみた。
カシミヤ=究極の機能素材、その魅力を拡張したい
シャツやフリースまで、
どのレシピで作るかを見極める
化繊を受け入れられない体質になってしまったことが、天然繊維で服づくりをするきっかけになったボーディの水谷さん。素材についていろいろ調べた結果、「耐久性があって肌に優しく、通年着用可能な機能素材」としてカシミヤに行き着いた。
「カシミヤで日常的に着られるスウェットを作りたいというところから始まり、誕生したのがシグニチャーの“ヘビーウェイト”シリーズ。スウェットらしさとは何かを考えることから始め、度目(編み地の目の大きさや密度)や目付(単位面積当たりの密度)、肉感などディテールを突き詰め、ニットの条件の範囲でスウェットを作りました。最初は肉厚すぎてアウターのようでしたが、糸の番手や編み方を工夫してアップデートを重ね、この1~2年で安定しましたね」。
水谷さんが使っているのは内モンゴル産の最上級ホワイトカシミヤ。カシミヤらしさを生かしたきれいなニットも作りたかったそうだ。
「次に“ヘビーウェイト”よりも着られる期間が長い、ロンT以上スウェット未満の“アンビエント”シリーズを作り、この2軸でいくことにしました。“アンビエント”はカットソーなどに使われるカシミヤの梳毛糸を、度目を詰めて肉厚にし、スウェットに近づけたんです。きれいなものをあえてカジュアルに作る。そこがボーディらしさだと思っています」。
ちなみに水谷さんは“最上級”と珍重されるベビーカシミヤをあえて使っていない。
「僕は強度があって日常的に使えるものを前提にしているので、耐久性のないベビーカシミヤは珍味のような感じがするんです。デザイナーは料理人に似ていて、食材の油分が多いほうがいいとか、筋肉質なほうがいいとか、好みがあります。また同じ素材を選んでもレシピ次第で完成品は違ってくる」。
5年ほどたったところで、「カシミヤ=冬のイメージ」を払拭すべく夏用の新たな糸の開発に着手。
「カシミヤをオールシーズン着るというのが、僕の本来の目的でもあったので、このときはカシミヤがなぜ暖かいのか、構造から見直して保温性をなくすということをやりました」。
特殊な糸の開発は日本で行っている。試行錯誤の末、カシミヤ本来の復元性や防臭性はそのままに、暖かくならない糸ができた。この技術を使って通年で着られるシャツもラインナップ。
「原料はハイクオリティな内モンゴル産ですが、糸の開発や縫製に関しては日本のほうが上手。カシミヤのしなやかで繊細な生地できれいなシャツを作るなら、やはり日本ということになる。適材適所で取り組んでいます」。
こうした積み重ねがあって、今季はカシミヤのフリースに挑戦。
「フリースはアウターとしての可動領域をもたせるために、ほんの少しポリウレタンを混紡してストレッチ性を加えています」。
製品としてよくなるなら、現代の素材も柔軟に取り入れる。
「いい素材だから価値があるというのはもちろんですが、それ以上に見た目がいいことが重要だと思っています。ボーディはデザインにもこだわりつつ、クオリティも極める。ファッションブランドとプロダクトブランドの中間的立ち位置で、これからも“機能的なカシミヤ”の可能性を追求したいです」。
大手アパレル企業でさまざまなブランドのマーケティング、生産、MD、バイヤーを経験。「自分で考え、自分で作り、自分で売る」ということをいちばんに掲げ、2018年にボーディをスタート。