この春、買い物にまつわる60のエッセイを綴った新刊を上梓したスタイリストの祐真朋樹さん。「洋服を主軸にした思い出を、誰かと共有したくなって」書いたという一冊。ならばと、UOMOでの思い出も読者と共有したくなり、長年、本誌にて氏のスナップ連載を担当していた編集中野がインタビューを敢行。本には書かれなかった気ままで貴重、なにより洒脱な証言集です。
TPOでいちばん意識するのはO =「誰に会うか」です
中野 祐真さんとの最初のお仕事から15年ほどになりますが、こうして改まって僕自身がロングインタビューをさせていただくのは初めてですね。パークハイアット東京のピークラウンジにお越しいただきました。
祐真 1994年にこのホテルが完成して数年後、トム・フォード(以下、トム)からパーティに誘われました。ここにあるレストラン、ニューヨーク グリルが会場です。当時、トムはGUCCIのクリエイティブディレクターで、東京でショーを開催したんです。ショー会場は別のホテルでしたが、彼自身の滞在先はパークハイアット東京。そこで客室でインタビューをすることになったんです。取材後、プレスの方から電話があり「トムが今夜、パーティに招待したいと言っているから来て!」と。僕は夜に広告の仕事の打ち合わせが入っていたものの「行くしかない!」と思い強行突破。ただ30代前半の僕は一人ではやや不安で強さん(スタイリストの野口強さん)、馬場ちゃん(スタイリストの馬場圭介さん)を誘って。本来であれば、トムによるGUCCIの服を着て行くべきところですが、いかんせん突然のお誘いだったので僕の服装はDOLCE&GABBANAのレザーハーフコート(書籍の#19に登場)。強さんはM65、馬場ちゃんはMA-1。これが意外とGUCCIチームにウケたので結果的にはよかったですが。会場ではショーを終えてご満悦のトムと彼のチームがテーブルを囲んでいて、なんと全員の腕に「仲間の印」かのようにロレックスのサブマリーナーがつけられていて、ものすごくかっこよかった。「僕にもください」と言ってみたら、笑いながらかわされましたが素敵な一夜でしたね。アシスタントから広告関係で鬼のように連絡が来ていたのは言うまでもありませんが。
中野 まさに新刊を読んで、祐真さんのエピソードは滞在先のホテルやレストランを起点にしたものが多いと思ったんです。僕がご一緒したお仕事でも、やはりホテルを起点にした思い出がたくさんあります。中でも祐真さんが気になるおしゃれな大人を自らスナップする連載「Gents on the street」(後にTRUE GENTSと改名)で訪れたロンドン(2015年)とロサンゼルス(2016年)は深く心に刻まれています。どちらも祐真さんはネイビーのスーツ姿でした。出張のとき、ラクな格好ではなくスーツ、時にはタキシードを着ているのはなぜですか?
祐真 日本と違って海外の都市ではスーツなどきちんとした格好をしているだけで明らかに相手の対応が違ってくるからです。特にパリは顕著です。逆に言えば、服でキメてさえいれば気分よく過ごせるということ。もちろん人を見た目だけで判断してはいけないけど、特に海外では見た目に助けられることが少なくありません。ロンドンではTODD SNYDERのタキシードにVALENTINOのTシャツ、LAではGUCCIのシアサッカースーツに現地で買ったプリントTシャツやPORTER CLASSICのアロハシャツを着ていました。
中野 そのことを深く実感したのが、LA出張でした。このときのホテル、シャトー・マーモントでのエピソードは新刊にも書いていただいていましたね(書籍の#50)。でもそこに書かれていない裏話をしていいですか?
祐真 何かありましたっけ?
中野 本に書かれているとおりセレブリティ御用達のホテルだけあって、セキュリティが厳重でレストランにも基本宿泊客しか入れない。僕たちが泊まっていたのはこのホテルの近くのホテル。「無理だ」と諦めかけた僕の横で、祐真さんは7階建てのホテルを目の前に、入り口のガードマンからの「What’s your room number?」という問いかけに対し、堂々と「901」と宣言したんです。ボケか真面目かわからず恐れおののく当時26歳の僕。そしてなんと門は開かれた。スパイク・リーやジョニー・デップとここで会ったことより、驚愕&感動の瞬間でしたよ。
祐真 クチから出まかせでしたけど、LAはいい意味で洗練されすぎていないところが好き。だからどうしても行きたいレストランへ行くなら、張り切ってキメキメで田舎っぺ丸出しくらいがちょうどいい。そしたら向こうも「面白いヤツらが来た。入れてやろう!」となるわけで。見た目で一目置かれれば、実際次から顔パスになったわけですし。
中野 この経験から僕も出張=ラクな服という考え方を捨てました。そしてなにより「諦めず創意工夫する大切さと楽しさ」を教えていただきました。ロンドンで一緒に滞在したホテル、ルーカリーも印象的でしたね。
祐真 親密で素晴らしいホテルでした。東京で特別にスナップさせてもらったジョナサン・アンダーソンに教えてもらったんですよね。彼がロンドンでいちばんお気に入りだと。
中野 当時、ジョナサンは30歳で、LOEWEのクリエイティブディレクターになったばかりの頃。大雨の中、表参道のお店で祐真さんによる「Gents〜」連載(前出)の撮影。実は、この取材が僕のこれまでのキャリアでいちばん緊張の時間でした。
祐真 短い日本の滞在中に加えて朝早くて、明らかに不機嫌そうでしたからね。でも撮影しているとカメラLEICA M6×レンズNOCTILUX(書籍の#24に登場)に反応してくれて、コメント取材の頃にはご機嫌になっていた。やはり生粋のジェントルマンでした。
中野 そのときも祐真さんはネイビースーツにkolorのベージュのレインコートをはおっていました。ロンドンと言えば、その頃、TOM FORDはロンドンでプレゼンテーションを行っていて、一緒に見たコレクションが素晴らしかったので2015年にTOM FORDのファッションストーリーをUOMOで撮影しました。舞台は東京の3つの名門ホテル。
祐真 帝国ホテル、オークラ東京、キャピトルホテル東急それぞれのメインバーで。
中野 バー撮影は許可取りが難航しがちですが「できないと思ってオファーしてはいけない。まずは相手を知ろう」と、打ち合わせ後にそのまま3軒のバーを一緒にハシゴして。祐真さんはスーツにTOM FORDのサイドゴアブーツを履いていました。
祐真 トムのサイドゴアブーツは名品で3足持っています。一足目はGUCCI時代にオーダーしたもの。最初、手違いで白のカーフで仕上がってきたのもいい思い出。どの時代もフォルムは変わらず美しいのですが、微妙にヒールの高さが違うんです。今後もずっと履き続けると思います。
中野 スーツとよく合わせている白のタートルネックニットも祐真さんのアイコンの一つだと思っています。LANVIN COLLECTION MENSのディレクターだったときに作っていたその名も「青春タートルネック」は僕も着ています。名前からして思い出があふれそう。
祐真 オフ白ではなく純白のタートルネックニットはなかなかない。僕も気に入りまとめ買いしました。ネーミングについては純白=青春だろ、と。青春時代に白いタートルネックを着ていたわけではありません。
中野 思い出はなくとも思い入れはあるんですね。ところで本が出版されて以降、最近は何を買いましたか?
祐真 今日も履いているPRADAのコインローファーを数日前に買いました。一緒に行ったロンドンで買ったPALACEのコインローファーに似ています。最近着ている服もPRADAのものが多いです。
中野 合わせているのはやっぱりTabioのホーズ(書籍の#45に登場)ですか?
祐真 いやこれはフランスのBonne Maisonのソックスです。表参道のスパイラルマーケットで細々と売っていて、薄さと発色のよさがお気に入りです。好きな色や柄を見つけたらちょくちょく買い足しています。
中野 最後に祐真さんはTPOどれをいちばん重視して、毎日服を選んでいますか?
祐真 O=「誰に会うか」です。
中野 祐真さんの服にまつわる思い出の多くが、「誰か」とのものである理由がわかった気がします。
『祐真朋樹のSHOP-A-HOLIC MEMORIES』
ファッションエディター祐真朋樹が自身の還暦を機に書き下ろした珠玉のエッセイ集。私物写真も多数掲載。各界の著名人との交友録も必読だ。祐真朋樹著¥2,750/ソウ・スウィート・パブリッシング
1965年京都府生まれ。(株)マガジンハウス「POPEYE」編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。長年ファッションの第一線で活躍中。著書に『祐真朋樹の衣装部屋へようこそ』(集英社)など。