2020.07.11

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.74 マルニのノースリーブジャケット|2020年5月号掲載

取材を受けたり、誰かと対談したりすると、「僕は服を着るのが好きだ」という話になる。僕の人生の基本は、結局それなのだ。だから服はいやが上にもどんどん増えていく。最近、アメリカの料理番組を見ていたら、マイ・ヴィンテージな昔の服を着たくなった。もちろん、合わせる服はふんだんにある。温故知新な組み合わせもいいものだと思う。

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最近はNetflixやYouTubeで料理番組を見るのにはまっている。おいしそうな料理を見ること自体が好きなのだが、それ以上に、登場する料理研究家やシェフの知識と経験に裏打ちされたコメントに惹かれるのだ。肉、野菜、魚などの素材の扱い方、失われつつある郷土料理の復活、和食〜ウエスタンなど、ジャンルの垣根を越えた調味料の組み合わせ、調理中の温度への気配り…等々。なんだか自分の生活にも役立てられそうなワードが次から次に出てきて刺激的だ。そんなある日、熟成肉や干し魚の話を聞いていたら、僕の大切なマイ・ヴィンテージの服たちはどうなっているかと気になりだし、久しぶりにトランクルームをのぞきに行った。



洋服は食べ物ではないので、いくらおいても熟成肉や干し魚のように旨味成分は出ない。が、長い間触れることもなく、ハンガーに掛けて放置していると、温湿管理が行き届いているトランクルーム内であってもそれなりに劣化する。なので、僕は定期的に見に行って袖を通すことにしている。そうすると、その瞬間、服が甦ったように思えるのだ。静まりかえったトランクルームで一人悦に入る僕…。笑っちゃうけど、僕のマイ・ヴィンテージとの向き合い方はそんな感じです。ほとんどのアイテムが思い出深いものだから、パッと見れば、その服との出会いから今に至るまでの記憶が走馬燈のように甦る。



が、中には着た記憶がないようなものもある。今回は、そんな「一度も着ていないのに捨てられなかった服」をピックアップすることにした。選んだのはマルニのノースリーブジャケットとパンツ。本当はジャケットもあるスリーピースなのだが、あえてジャケットは合わせず、このベストみたいなノースリーブジャケットを春らしく着こなそうと思った。素材はパンツともどもシワ加工が施されていて、一見ドレスアイテムではあるがカジュアルなムード。昨年の春夏はメゾン マルジェラのノーカラージャケットをセットアップでよく着ていたが、今回はノースリーブである。



素材のダメージ感を考慮して、合わせるものはカジュアルなTシャツなどはやめて、昨年、銀座大和屋でオーダーしたロンドンストライプのシャツにした。ダブルカフスでカフリンクスが必要なので、クロゼットからトム・フォードがグッチ時代に出したものを引っぱり出した。ネクタイはエンジニアド ガーメンツのポルカドット。素材はカジュアルだが、太めなのがドレスでいい。



となれば、足元にもわずかにドレス感が必要だと思い、これまたマイ・ヴィンテージからバーカー ブラックのブーツをピックアップ。ソールはビブラムだが、アッパーのレザー使いはドレス仕様。ハイカットとパンツ丈とのバランスもちょうどいい。ハットは30年近くの付き合いになる木島隆幸さんの今季もの。ひもはついていなかったが、お願いして革ひもをつけてもらった。ツバの広さと形を自由に崩せる構造に大満足。これからの季節、日差しの強い状況で大活躍してくれるのは間違いないだろう。



さて、僕のヴィンテージたちは、シェフの皿の上で洋の東西が巧みに混ざり合う料理のごとく、新旧取り混ぜた愉快な組み合わせになっただろうか? 厨房での賄いメニューくらいにはなっているとうれしいけれど。まあとにかく、僕の好みではある。



(左)ひもなしのデザインだったが、木島さんに特別に穴をあけて革ひもをつけてもらったハット。かぶればホリデー気分満載。おじさんの夏休み。 (中)東京都美術館で開催されていた「ハマスホイとデンマーク絵画」展。ミュージアムショップでTシャツ、ハンカチ、ラペルピンを購入。 (右)誕生日に自分で自分にプレゼント。六ヒルのエストネーションで衝動買いしたティエリー・ラスリーのサングラス。アクアブルーのフレームが素敵。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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