2020.04.05

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.73 コム デ ギャルソン・オム ドゥのセットアップ|2020年4月号掲載

年明け早々、コム デ ギャルソン青山店へ行った。店内はバーゲンセールかと思うほどの混雑ぶり。この日は春物初日、つまり新作が並ぶ日だった。そんな活気のある店内の雰囲気に流されて、最近気になっていたオム ドゥのコーナーへ。衝動的にオリーブ色のセットアップを試着した。トップスは、トレンチ型とノーフォーク風の2種。一瞬迷ったが、着てみてノーフォークに決めた。

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最近面白いコメントを聞いた。「年をとるにつれ、思い出が増えていく」。当たり前な話だが、僕も55歳。思い出がパンパンだな、と思ったりする。もちろんいいことばかりではなく、嫌なことも含めて思い出は蓄積され、それらは「知恵」となって僕の中に存在している。問題が起これば僕を守ってくれ、時には潤滑油のような役割も担ってくれている。アロマの効果のように、僕をリラックスさせてくれることもある。



若いときと比べれば、チャレンジ精神が薄れ、エキサイティングなことや感動することも減っているのかもしれないが、長い時間自分自身と付き合っているぶん、若いときよりも自分を深く知っているのは強みだ。むしろ、若いとき以上にエキサイトする瞬間が多いかも、と思えたりもする。



今年は年始早々に閉店時間間際のコム デギャルソン青山店へ行き、セットアップとポロシャツを買った。気になった靴もあったのだが、とりあえずは衝動を抑えて中一日熟考。結果、やっぱり欲しくて「売り切れていないか?」とドキドキしながら店へ。無事に購入できた。



思い起こせば、コム デ ギャルソンの服を初めて着たのはかれこれ40年近く前のことだ。兄が持っていた服を借りたのが最初だった。長い付き合いになる。僕も年をとったし、ブランドも年を重ねたわけだが、変わらないのは、袖を通したときに感じる「初々しさ」だ。コレ着てどこへ行こうか、などと思いを巡らせるのだ。気に入った服を手に入れてもそれを着ていく「場」がない、などと言う人も多いが、着ていけばそこが「場」なのだと思う。



たとえ場違いな「場」であっても、自分に魔法をかけて楽しめばいいと思う。TPOやドレスコードを踏まえるのは大事かもしれないけれど、時に逆らい、間違うのもファッションの醍醐味だと思う。だってファッションは間違っても死なないし。僕は、55年の大半をそんな具合で過ごしてきたなー。これって、演歌的にいえば「定め」なんじゃないかな。



最近、友人がインスタグラムに31年前の写真を上げていた。パリの街角で数名が一緒に写っているのだが、その中にヤングな僕もいた。隣にはハリウッド ランチ マーケットの「ボス」こと垂水ゲンさん。右端にはポータークラシックの吉田克幸さん(以下、カッタン)が写っている。この写真は二人がコム デ ギャルソン・オム プリュスのパリコレにモデルで出たときで、ショーの後、仲間数名で食事に行った帰りに撮られたものだ。二人ともランウェイでの姿も格好よかったが、何より、彼らの存在感そのものに強く惹かれるものがあった。



懐かしくなって久々にポータークラシックをのぞいたら、いかにもカッタン好みのビッグブラウスとアスコットが! で、購入。そして猿楽町のジャーニーでは、これまたボス好みのイタリア産の白タートルに遭遇。さらにハイ!スタンダードで “I ♥ MEXICO”のバッジも購入。いずれも、年頭に買ったコム デ ギャルソン・オム ドゥとよく合う。作り手のスタイルや目指しているものに共通するものがあるからだろうか?



ファッションにおいては、コレが絶対に正しいなんて考えはもたないほうがいい。気づかないうちにスルッと抜けていったかと思えば、ふとまたそれが戻ってきていたりする。そんなフワッとしたところにこそ、曖昧で奥深い魅力が潜んでいるのだから。



(左)コム デ ギャルソン・オム ドゥのジャケット。同素材のパンツも一緒に買いました。ラペルにつけた “I ♥ MEXICO” バッジは代官山のハイ!スタンダードで購入。(中)ポータークラシックのビッグブラウス。袖口の仕様も密かにしゃれてて、そこも大好きなんですよね。アスコットタイの太さも微妙なとこ突いてます。さすが。(右)二晩迷って買ったブーツ。ワラビーとチャッカが合体したような形状に惹かれました。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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