2019.12.22

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.69 マノロ ブラニクのイエロースエードシューズ|2019年12月号掲載

何十年も着ていない服を新鮮な気分で着る。僕にとってそれは奇跡以外の何物でもない。一生ものになるとロンドンで誂えたスーツは、ハンガーとともに化石になりかけていた。それが、一足の新しい靴を合わせることで甦る。時代を飛び越え、流行のはるか上空をいく、超個人的なロマンティックコーディネート。ネバーエンディングストーリーの始まりなのだ。

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.69 マの画像_1

夏前に買ったマノロ ブラニク(以下マノロ)のコンビシューズ2足が、今いちばんのお気に入り。買ったのは、白×黒のドレスシューズとオフ白×赤茶のラバーソール。ドレスシューズはジャケット&パンツのセットアップやTシャツ+スラックスに合わせる。オフ白×赤茶のラバーソールのほうは、シャツ×ドレスジーンズと合わせている。



もともとコンビ靴ファンだが、マノロのコンビはデザインと色がしゃれていて、時として服より強い存在感を放つのだが、デザインに品があり、スマートに収まるのがいい。



そして今、新たなマノロを手に入れた。今度はスエードのウイングチップ。カタログを見て、スエードの穏やかな質感と華やかなイエローの発色に魅せられた。ほかにパープルやグリーンも気になったが、欲しくなったのは断然イエロー。が、最初に僕が行った表参道店ではイエローがなく、「日本未入荷なのか」と諦めた。



が、後日店から「名古屋店から取り寄せました」との連絡が入った。あらためて名古屋のオシャレパワーに感服。去年招待してもらったグッチ名古屋店のDIYイベントでも、みんなオシャレに貪欲で、ものすごい勢いでDIYを購入していた。名古屋、さすがなのである。



さて、イエローの靴は何と合わせるべきだろうか。いつもながら自分の無計画な衝動買いにあきれる。出張が重なっていたので、買ってしばらくはクロゼットに箱のまま放置していたが、漠然とスーツと合わせたいとは思っていた。なので、とりあえず過去にサヴィルロウで誂えたスーツと合わせてみることにした。



ハンツマンやギーブス&ホークスでビスポークしたスーツと合わせてみたが、どうもしっくりこない。そこで隣に掛かっていたオズワルド・ボーテング(以下オズワルド)のオリーブ系グレンチェックのスーツならどうかと合わせてみた。なんと1996年(!)に作ったスーツだが、不思議とフィットした。こんなことがあるから服は取っておくべきなのである。



1995年にパリで見たオズワルドのデビューコレクションは鳥肌の立つものだった。カラフルで「ブリリアント」(オズワルドの当時の口癖)なスリムシルエットのスーツが素晴らしく、登場したアフリカ系モデルたちの存在感も抜群。超絶新鮮で、深く記憶に残るショーだった。



その1〜2カ月後、僕はロンドンのポートベローホテルに滞在していた。ホテル周辺を歩いていたら、なんと目の前をオズワルドが通り過ぎていった。思わず、「え? オズワルドだ!」と叫んだら、彼は「そう、俺はオズワルド・ボーテングだ」。僕は「ぜひ僕にスーツを作ってください」。そして翌日、僕は彼のアトリエにいた。



後に彼はサヴィルロウに店を構えたが、当時のアトリエはポートベローマーケットの奥にあった。狭いフィッティングルームで、彼の採寸を受けつつ、オーダー途中のスーツが掛かったラックを眺めていたら、スーツにつけられた注文書がチラッと見えて、中にニック・ナイトという名前があった。思わず「ニック・ナイト!」とつぶやくと、オズワルドが「そうそう、そのピンストライプは彼が注文したスーツ」と言った。うれしさがこみ上げた。



そんなオズワルドのスーツも20年以上着ていなかったが、堅いブリティッシュスーツにマノロの靴を合わせるのは僕流のドレスダウン。こうしてオズワルドのスーツは、見事現役復活となったのであった。



(左)マノロ ブラニクのトラディショナルシューズは、老舗シューズメーカーにはない軽やかさが特徴。それは非常にエレガントな魔力なのだ。(中)フィレンツェにあるグッチミュゼオにてゲット。ストレンジなフレームに惹かれました。ロケットマン気分でかけようと思っているが、まだどんな格好に合うのかと考え中。(右)ティーンエイジャーの頃に憧れたビル・エヴァンス。その彼の映画Tシャツ。息子へのプレゼントに。
1/3
祐真朋樹の密かな買い物 Vol.69 マの画像_2
2/3
祐真朋樹の密かな買い物 Vol.69 マの画像_3
3/3
祐真朋樹の密かな買い物 Vol.69 マの画像_4

Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

RECOMMENDED