2019.11.24

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.65 セリーヌのポインテッドトウシューズ|2019年8月号掲載

部屋の整理整頓中に見つけた、傷んだ服や靴を都内各所にあるお直し屋さん数軒に出してみた。古い服の傷みや汚れを直して着ると、心が和らぐ。それらを、新しい服や靴と合わせるとなお楽しい。今回は、靴やベルトなど名脇役である小物を購入。手作りのベルトは、使いながら柔らかくしていく。セリーヌの靴は、毎日ピカピカにして履きたい。草履は日本の夏風情を室内で愉しめるのがいい。

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京都から東京へ来て33年。初めて深川の街を散歩した。最近は一日に1万歩歩くことを習慣にしていて、このときも、地元のイベントで下町を歩く会に参加した。清澄白河、門前仲町辺りを歩き、清澄庭園に公園、富岡八幡宮、深川江戸資料館、ブルーボトルコーヒー1 号店など、見るものすべてが初めてで、刺激的だった。これまで、ロンドン、パリ、ニューヨーク、京都などの情報には敏感だったが、最近は、その辺よりも今住んでいる街のことが気になる。



久しぶりに近所にある店「ベンチメイド」へゴローちゃんに会いに行った。ゴローちゃんとはかれこれ30年の付き合いで、僕が20代前半に「POPEYE」で猛烈に働いている頃に、ゴローちゃんは原宿のデプトストアで働いていた。そのときに、ルックスナイスだったゴローちゃんに、モデルをお願いしたのが始まり。確か’89年頃? 平成元年あたりだったはず。なんて言うと、目が細くなるほど遠い昔に思えるが、僕としては昨日のような感覚だ。



人との関係は面白いもので、ずーっと会っていなくても、会った瞬間に前に会ったときの続きでいられるような関係の人たちがいる。そういった人たちと共有する時間は、常にすがすがしい。野暮な言葉に思われそうで恥ずかしいが、こういうのが「青春」なのだと思う。そこには、同窓会のように何かを懐かしがるだけではなくて、今の生き生きとした会話が息づく。



この日は、ゴローちゃんの顔を見に行くつもりで行ったが、店に入ってゴローちゃんと話し出すと、急にベルトを作りたくなった。しっかりとした黒いレザーに四角いシルバーバックルのベルトをオーダー。ゴローちゃんが何気に「月でも入れますか」と言うので、では僕の名前の「朋」を生かして二つの月を入れてほしいと頼んだ。出来上がったのがこれだ(右下写真)。



エディ・スリマンが今度はセリーヌのクリエイティブ・ディレクターになった。サンローラン・リブゴーシュ、ディオール・オム、サンローラン、そしてセリーヌ。古くはジョゼ・レヴィのアートディレクターと、エディ・スリマンを知ってからも随分と時間がたつ。が、今も昔も変わらずエディ・スリマンは格好いい。だから、早速彼らしい靴を表参道の店で買った。



その靴と、以前エディ・スリマンがサンローランのときに発表した細身のウールギャバのスラックスが相性抜群である。トップスのマルチカラーTシャツは今季の「CABaN」。ラインの色合わせと肩落ちかげんのこだわりに惹かれた。セリーヌのポインテッドトウシューズと、ゴローちゃんのシルバーバックルベルトの合わせは愉快だ。それぞれの作り手が考えもしない取り合わせをフィットさせた瞬間は、スタイリストとしては何物にも代えがたい快感なのだ。



エディ・スリマンのセリーヌは、今度の秋物に欲しい服が多い。1月にパリで見たコレクション演出も素晴らしかった。エッフェル塔と凱旋門の夜景をバックに、サクソフォンの生演奏。これ以上はないパリの美しさを目の当たりにして、久々に心が燃えた。



ようやく部屋のリノベも落ち着いてきて、ワードローブが見やすくなってうれしい。片づけしているときはどうしてこんなに服があるのかと腹立たしくなったりもしたが、いずれの服にも代えがたいストーリーがあり、服と僕との濃密な関係を改めて考えた。そして映画『マックイーン:モードの反逆児』を観に、意気揚々と出かけたのである。



(左)藁ではなく、竹皮で作られた草履。土踏まずの部分が盛り上がっていて、歩くたびにツボに刺激があるのがいい。高知県の「竹虎」製。室内履きに。(中)セリーヌのポインテッドトウはシングルバックルでシンプルな印象。デニムではなく細身のスラックスと合わせて履きます。パンツ丈は短くしてソックスを見せる。(右)「ベンチメイド」でオーダーメイドしたベルトは何にでも合っちゃう。四角いバックルのシルエットが好き。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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