2019.10.27

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.44 バブアーのパーカ|2017年11月号掲載

バブアーのパーカにゴム長の合わせ。トラディショナルなアイテムには安心と安定があるが、退屈も潜む。ファッションにはときめきが必要だ! と、少年の頃のような気持ちになって、僕はお盆に里帰りしてきました。

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今年のお盆は京都へ帰り、墓参りに行ったり大文字焼きを見たりした。思えばこの一年、友人や知人の何名かを亡くしたことが僕をそんな気持ちにさせたのだと思う。3泊4日の旅だったが、今回は一人で京都の街をプラプラした。



子どもの頃の夏休みは、祇園祭、宝ヶ池の花火大会(乾杯の夕べ)、大文字焼き、御手洗祭、地蔵盆、美山川での鮎釣り…が、僕の思い出である。中でも印象が強いのが大文字焼き。ダイナミックな火文字が山を彩るのを見ながら数珠で拝むという行為に、何か強い精神世界を感じていた。燃え上がる火文字を前に、心静かにみんなが拝む様は、子どもの心にも深い何かを残したように思う。 



初日は昼間に墓参りをして夜に大文字を拝み、酒も飲まずに早々に寝た。翌日の夜は祇園の友達の店で食事をする約束をしていたので、昼間は叡山電車に乗って鞍馬へ出かけ、夕方にホテルへ戻り、夕食まで時間が空いたのでホテルに頼んでマッサージを呼んでもらった。



45分コースを頼んだのだが、いざ始まると、ツボへの刺激が超絶妙。「すみません、やっぱり60分でお願いします」となり、でも60分でも物足りず、結局90分やってもらうこととなった。担当のおばさんは、技術の素晴らしさもさることながら、話が非常に面白かった。



年の頃は75歳くらい。もうこの仕事をやめると言っていたので、あれが最初で最後の体験となるのだろうか。あまりに気持ちがよくて、そのまま寝落ちしたいところだったが、約束があったので気合を入れ直し、晩ご飯へと出かけた。



友達の店は祇園の老舗料理店だが、昨年、先代の大将が急逝し、今は僕の友人である息子が店を継いで頑張っている。この日は先代の奥さんであるおかみにも会えた。そもそも芸者さんだったおかみは、どんなときでも陽気で楽しい人。



この日僕は、15年前に撮った先代の大将の写真を持って行っていた。その写真は、店の近くの甘味屋さんにみんなで行ったときに撮ったもの。写真の中の大将は、僕のサングラスをかけて楽しそうに笑っていた。その写真を見た奥さんが「映画監督みたいで格好よろしいわ」と喜んでくれた。僕もうれしくなって、飲みかけのビールをやめて「十四代」を頼んだ。



その後、友人と僕は、店を閉めてから一緒に2軒のお茶屋さんを回った。1軒目のお茶屋さんでは、花街で数十年働くおばさん(芸者さんではない)と話していたら、なんと彼女は僕の小学校の大先輩だったことが発覚。会うのは4回目だが、初めて母校の話で盛り上がった。祇園で上賀茂の話で盛り上がるとは! 懐かしくてうれしい限り。



次のお茶屋さんでは、80歳の現役の芸者さんと飲む。背筋がピンと伸びた彼女は肌の艶もよく、今でもピカピカの美人である。飲み姿も美しく、機転は利くし滑舌もしっかりしている。そんな奇跡を目の前にすると、こちらも背筋を伸ばして飲むしかない。



この夜、僕は4人の70代〜80代女性と飲みながら話したわけだが、やはり年月を重ねてきた人の話というのは深さが違う。実際、酒のせいで半分以上は記憶が飛んでいるのだが、グサリと心に刺さった話のいくつかを、僕はこの先も忘れることはないだろう。今は上っ面しか理解できない内容も、いつかもっと年をとったときに「ああ、そういうことだったのか」と懐かしく思い出すに違いない。



さて、今年の夏は雨続きで、初夏に買ったバブアーのパーカが大活躍してくれた。オイル引きではなく、ソフトなのが新鮮。ゴム長と、バレンシアガのタートルネックセーターを合わせて、新たなスタイルにトライしてみた。雨にも負けず、風にも負けず、9月を乗り切る!



(左)バブアーのパーカは、裾広がりのシルエットに惹かれた。着脱が少し面倒だけど、一日中脱がないワイルドな環境だと問題なし。ま、僕の場合は、そんな状況ほとんどありませんが。(中)京都の寺町通りにある鳩居堂で購入。香道の道具コーナーに置かれていたのを見てひと目惚れ。ポケットチーフかハンカチとして使うつもり。(右)バレンシアガのシンプルなタートルネックセーター。タートルネック好きにはたまらん出来です。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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