2019.10.13

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.31 スミスとジョン ロブ|2016年10月号掲載

〈ジョン ロブ〉のロペスとウィリアム。憧れの2足をついに手に入れた。純白のカーペンターパンツは〈スミス〉のもの。ロゴが大好きだ。今回は2年ぶりに会った同級生と贈る梅雨の終わりのハーモニー。

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月曜日の夜10時半を過ぎた頃、僕は高校時代の同級生Tとスナックアーバンにいた。入るなり、いい具合に出来上がった客から「スケちゃん、ジュリー唄って! 今、『君をのせて』入れたから」と声をかけられた。僕はいきなりの強引な誘いに中途半端な表情でうなずき、そして唄う準備をした。



最近僕は、誰かのリクエストに応えて唄うのに凝っている。それが知らない人からのリクエストならなおよし。知らない歌でも唄ったことのない歌でも、リクエストされたらデンモクの演奏ボタンを押す。間違っていても、オレ節で唄えている場合は、最後までぶっちぎる。リクエストしてくれた人の顔を見ながら、ひたすら気持ちよく唄ってしまうのだが、まあ、たいていは翌朝深く恥じ入り→反省、となる。



この日、「君をのせて」を僕にリクエストしたのは、昔、中目黒のスナックマリアでよく会った年上の女性。当時、僕がこの曲をよく唄っていたのを覚えていてくれたのだろう。



で、その夜のスナックアーバンは、某ファッションデザイナーが特別にママを務めていた。本当のママはといえば、いつもは着物なのに珍しくドレスを着て、いちホステスに徹していた。



僕は以前、この店で一夜限りのマスターを務めたことがある。そのときは4周年記念で、この日は6周年記念だった。店内は50代~60代の人で埋め尽くされていた。そんな夜だとも知らずに連れてこられた同級生Tは、僕とはまったく畑違いの業界で働いている。でもファッション好きだったこともあり、その場の雰囲気にすんなりと馴染んでいた。



スナックアーバンに来る前、僕たちはアジアンダイニングにいた。Tの仕事は5時終了なので、スタートは6時。彼が最近通いつめているというその店はネパール人の経営で、メニューの半分がインド料理。最初は瓶コロナでキメた。まだ明るいうちに飲む夏のコロナは格別。枝豆やサラダなど数品のつまみを食べたら、僕たちはお腹いっぱいになってしまい、カレーを頼むことができなかった。コロナの後は、一杯100円のハイボール(トリス)を飲み倒し、いい感じに酔っ払ってスナックアーバンへ。



この日Tは、ブルックス ブラザーズのストライプのボタンダウンシャツを着ていた。ネクタイは仕事が終わったので外している。昔からおしゃれだったので、仕事着として着ているスーツも妙にイケていた。隣に座っていたファッション関係の女性に「素敵ですね。どちらのシャツですか?」と聞かれて彼が答えたので、それがブルックス ブラザーズのものだと知った。



オックスフォードクロスではなく、ワンポイントマークも入っていないボタンダウンシャツ。それを素敵に着るTを見ながら僕は「いいね」と言った。彼は自分のシャツをつまんで、「これは衣料品! スケちゃんの世界とは違う」と言うと、デンモクの演奏ボタンを押した。選んだのはジュリーの「追憶」だった。



僕は、流行でもない服を着ておしゃれに見える男に憧れる。どんどん新しい服を買いつつ、懐かしい服にも惹かれる。つまり僕は、いろんな矛盾を抱えた男だ。今月は、懐かしい〈スミス〉のカーペンターパンツと、憧れていた〈ジョン ロブ〉の名品、「ウィリアム」と「ロペス」を衝動買いした。さて、大好きな秋がもう少しでやってくる。待ち遠しい。



(左)ウィリアムは10年以上前に黒のカーフを購入。今回の茶はしっとりとした質感にひと目惚れ。(中)カーペンターパンツを買ったのは30年以上ぶり。純白で下着が透けるので注意しなくては。(右)ロペスは素足で履きたい。雨に濡らさないようにして、大切に長く履き続けたい。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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