2019.09.29

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.25 アレッサンドロ・ミケーレのグッチ|2016年4月号掲載

老舗〈グッチ〉に新風を吹き込んだクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ。大胆な柄とシルエット、色使い、そしてヴィンテージ薫る雰囲気。ただ今、新生〈グッチ〉に夢中です。

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〈グッチ〉というブランドを初めて知ったのは、小学校5年生のときだった。5歳上の兄が、ベージュのスラックスと合わせていたベルトが〈グッチ〉だった。ゴールドとシルバーのコンビのバックルはとにかくゴージャスで、子どもの目から見ても“ただものではない”品だとわかった。ブーツカットのスラックス(グッチのものではない)に、〈グッチ〉のベルトはこのうえなくマッチしていて、僕は一瞬にして、その圧倒的な大人のムードに心を奪われた。



さて、兄は中学1年までは通信簿がオール5の秀才だった。その兄、「家では好きな勉強に集中できない」と父に訴え、父はその訴えをすんなり受諾。自宅に程近いアパートへと引っ越していった。が、別居して間もなく成績はガタ落ち。同時に不良への階段を転げ落ちていった。



当時、兄の部屋へ行くと、玄関にはビットローファーがあり、クロゼット周辺には〈グッチ〉のロゴがついた箱が積まれていた。家とはまったく違う世界がそこでは展開されていた。なにか心躍る、魅惑の世界に足を踏み入れた感覚だった。



まあ実際、僕が兄の部屋で見たものは〈グッチ〉だけではなく、音楽、タバコ、酒…などなど、当時の不良の必須アイテムだったのだが。小学生だった僕にとって、兄の部屋に寄るのは冒険だった。どきどきしながらも開けずにはいられないビックリ箱のような場所だった。兄、そしてあの部屋が、その後の僕の人生に大きな影響を与えたのは間違いない。



それから20年が過ぎた1996年。僕はトム・フォードの〈グッチ〉を見て、人生2度目のグッチショックに見舞われた。僕は、Gバックルのベルトやモノグラムが型押しされたベルベットのスーツ、シャイニーなライダースジャケットなどを買いあさった。1992年頃から、僕はミラノに行くたびに〈ドルチェ&ガッバーナ〉の服を買いまくるのが習慣化していたが、1990年代の後半になると、そこに〈グッチ〉や〈プラダ〉が加わり、しかもその割合がどんどん増えていった。



そしてそれからまたまた20年。こうして再び〈グッチ〉の服をミラノで買うようになるとは予想していなかった。20年なんて一瞬だな、と、いささかセンチメンタルな気分になる。年をとるにつれて経験や思い出は増えていく。服と同様、経験や思い出もどんどん蓄積されていくが、いつかボケて、何も思い出せなくなる日が来るのだろうか。



デザイナーのアレッサンドロ・ミケーレと初めて会ったのは12年ほど前の東京だった。当時、彼は〈グッチ〉でアクセサリーの企画をしていた。トム・フォードがクリエイティブ・ディレクターだった時代である。都内のブティックやセレクトショップを一緒にまわり、最後に今はなき羽澤ガーデンに案内した。フリーダ・ジャンニーニも一緒だった。



二人とも若さに満ちていたが、感情の起伏をストレートに出すフリーダとは対照的に、アレッサンドロは物静か。でも眼光は鋭く、日本庭園や日本の器にも関心をもっていた。自然に囲まれた広々とした屋敷で飲む酒は、僕らを贅沢な気分にさせてくれた。〈グッチ〉のクリエーションに登場する草木や花などのモチーフを見るたびに、僕はあの日のアレッサンドロと日本庭園を思い出す。



(左)ひと目惚れして衝動買いしたビットローファー。赤もあったが、迷わず緑をチョイス。鰻の革は柔らかくて快適な履き心地。(中)年明けすぐに家の近所を散歩して〈ジョン〉をのぞく。生成りのオールスターに、これまたひと目惚れして即購入。(右)〈グッチ〉のボウカラーのブラウスは、去年の秋から狙っていた一品。ボウが細めなところが好き。スーツと合わせて着まくる予定。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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