2019.09.01

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.10 タキシードで、朝食を|2015年1月号掲載

タキシードをカジュアルに着たい。ブラックタイを着崩すのではなく、タキシードを普段着に着たいのだ。四六時中ハレ男のような“危なさ”を僕はファッションに期待している。さあそれでは、タキシードで朝食を!

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ʼ90年代の中盤から後半にかけて、僕はよく朝からタキシードを着ていた。今、なぜそんなだったのかと考えてみると、世紀末のムードが大きく影響していたのかも? と思う。新世紀の幕開けを目前にして、バブル崩壊後から続く頹廃気分を吹き飛ばす何かが起こるのではないかと期待していた。



思えばバブル時代は年末の忘年会気分が毎日、数年続いていたような時代だったともいえる。でもそんなバカな時代だったからこそ、ジーンズにTシャツでは味わえない、タキシードの妖しい色気に取り憑かれ、そしてその魅力を知ることになったのだと思う。シャンパンを好んで飲むようになったのもその頃だ。以降、シャンパンとはかれこれ20年以上の付き合いになっているわけだが、“朝からタキシード”からはここ数年遠ざかっていた。



が、もともとイブニングスタイルが大好きゆえ、この分野には興味津々。ミッドナイトブルーのタキシードをロンドンでビスポークしたり、ブルーベルベットのスモーキングを買い揃えたり、いろんなタキシードにトライしてきた。



最近気に入っているのは、今年の春に購入した「ヴァレンティノ」のタキシード。これを朝から着るのが気に入っている。つまり、いつの間にか、’90年代後半のスタイルが復活しているのだ。今回のインナーは「アレキサンダーワン」のパーカ。足元は「ヴァレンティノ」のスニーカーで、カジュアルにまとめた。



「アレキサンダーワン」のパーカは、ボンディング素材でウエットスーツのような質感。柔らかくて軽いが張りがあり、脱いだらそのまま立つくらい立体感がある。フードの内側はロイヤルブルー。フロントのロゴも同じ色で、袖口の裏も同じ色。袖をまくればブルーが見える。通常のスウェットパーカとは違うテクノファブリックは、「ヴァレンティノ」のミッドナイトブルーのタキシードとよく合う。



なぜこの組み合わせが誕生したかといえば、きっかけは深酒。前夜飲みすぎた朝、何も考えずに手に取ったものを着たらこうなった。まともに考えれば、このパーカのモコモコ感はタキシードジャケットには絶対NGだが、この日は、前夜のシャンパンが僕に天啓を与えたのであった。



朝からタキシード。話が戻るが、また僕は何かに期待をしている。堅実で現実的なワードローブやライフスタイルとは無縁な世界。地に足がついていない浮き足立った世界。そんなバブルな状況は、時に突拍子もないアイデアやエネルギーをつくり出す。



バブルを懐かしんでいるわけではないが(実際、僕はバブルに何の恩恵も受けなかったし)、あの暴走力みたいなパワーが少しでも戻らないかと期待している。「アレキサンダーワン」と「ヴァレンティノ」のデザイナーたちには何度かインタビューをしたことがあるが、話を聞いていると、彼らのバックグラウンドには、何やら妖しく魅力的な色気が潜んでいると思った。



さて、僕はなぜ夜の服にこうも惹きつけられるのだろうか。それはたぶん、「History is made at night」だからだ。昼間も夜の服を着て夜の気分でいれば、何かびっくりするような歴史的なことが起こるのではないか!? そんな期待を込めて、僕は今日もまた、二日酔いの身体にタキシードを装着するのである。



(左)ルシアン ペラフィネのセーター。ジャン=ミシェル・バスキアの絵に条件反射してしまいました。 (中)ロエベの靴。どうやって履くかは現在考え中。履きやすさ等々、機能とは無縁なデザインに惹かれました。 (右)アレキサンダーワンのパーカ。フードの形が好き。かぶって様になるのがいい。僕もよくかぶってます。
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Text:Tomoki Sukezane 
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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