2020.11.29

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.80 メゾン マルジェラのセットアップ|2020年12月号掲載

「あの服を着て〇〇へ出かけたい!」そんな気持ちは今の状況では湧いてこない。こんな時代が来るとは予想だにしなかった。でも、自粛が長引く中、ふと考えた。こんな時代だからこそ、もっとおしゃれしようと。イケてる新しい服を探しに街へ出よう! と。もちろん、感染予防には万全を期して。人生には気持ちが高揚するような瞬間が必要だ。

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例年ならば、そろそろ秋物を着ておしゃれして、素敵な店でおいしい料理を食べたいと思う頃。でも、思い起こせば、3月以降の夜の外食は3回だけ。コロナ感染のリスクを背負って外食するのは不安だが、これだけ自粛が長引くと、そんな状況にも慣れてきた。慣れれば自然と心もゆるむ。よくないこととわかっていても、そろそろあちこち旅行したり外食したりしたくなってきた。にしても、マスクの常備や、人とのソーシャルディスタンス、消毒や検温、そして換気などの習慣は、すっかり生活の一部となっている。

先日、ルイ・ヴィトンのメンズコレクションがお台場で開催された。3密を避けるため、屋外に間隔を開けた客席が用意され、見心地は最高。エンディングはヴァージル・アブローのメッセージ、そしてそれに続いて夕焼け空に上がる花火。その光景は抜群に気持ちがよかった。そんな素晴らしい日本ならではの光景は、新型コロナによって失われかけた僕の “2020夏” の記憶に深く刻み込まれた。新作の120ルックがパレードのごとく練り歩くランウェイ風景も、久しぶりに生の迫力を身近に感じることができ、素直に愉しかった。月並みな表現だが、当たり前と思っていたことがあらためて特別なことだと感謝できる瞬間だった。そんな出来事も、おしゃれして外食したい気持ちにつながっている。

ルイ・ヴィトンのコレクションの数日前、恵比寿にあるメゾン マルジェラ トウキョウをのぞいた。仕事でショールームを回る合間の時間調整のつもりだった。まだまだギラギラした夏の日差しが強く、秋冬の服を着る気分になど到底なれない状況だったが、そこにはピンストライプのダブルジャケットと裾の広いショーツのセットアップが、虎視眈々と僕を待ち構えていた。最近のメゾン マルジェラには、毎シーズン、ジョン・ガリアーノ色が強いアイテムが数点並ぶ。ガリアーノがクリエイティブディレクターなのだから当たり前だが、そもそもマルタン・マルジェラがつくり上げたブランド像とジョン・ガリアーノの個性には正反対なイメージがあったはず。それが今では、これもマルジェラなんだと思える世界観がある。その豪快なリブランディングが僕の心をくすぐる。ピンストライプのセットアップは、ゆるい生地感がつくり出す崩れたシルエットと、スカートのようにたっぷりと広がったショーツの組み合わせが秀逸。スカートを買ったのは25年ほど前のコム デ ギャルソン・オム プリュスが最初で最後。今回はスカートではないが、広がり具合は近い。

今年はめっきり出かける機会が減り、家で外出着を着るはずもなく、おしゃれ計画さえ立てる気にならない日々を過ごしたが、時間をつぶそうと入った店で、突然たまっていたモヤモヤが炸裂した。さて、これを着てどこへ外食しに行こうか? ホーズを合わせて、マノロのコンビを履いて…。

気に入った空間で、好きな音楽を聴きながら、大好きな人たちとうまいものを食べる。酒も少々。これまでの自分とは少し違った格好をして、新しい自分を愉しんでみる。そんな生活が、すぐそこに来ていることを期待して過ごしたい。感染を気にすることなく、ハグ、握手、キス…。今はNGとされている、人間的で愛情にあふれた生活が戻るまで、みんな頑張ろうね〜。



(左)ショーツというか、むしろキュロットに近い形のボトム。(右)のジャケットと合わせ、ホーズをはいてウィンザー公の気分で着こなすつもり。(中)年始に猿楽町のハイ!スタンダードで購入したベルトゥッチの腕時計。サイズの小ささとプライスの優しさに惹かれて、一気に2本いきました。普段使いに便利。最近立て続けに「どこのですか? 真似していいですか?」と聞かれるので掲載しました。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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