2026.10.21
最終更新日:2026.10.21

『人間一生図巻』|8ページに人間の一生を詰め込む。御年71歳の巨匠が挑んだ傑作【歌人が推す 短いのに、引きずり込まれるマンガ|枡野浩一】

『人間一生図巻』

『人間一生図巻』の一コマ
Ⓒいがらしみきお/双葉社

8ページに人間の一生を詰め込む。
御年71歳の巨匠が挑んだ傑作

『ぼのぼの』などで知られるいがらしみきお氏が昔々、「漫画はもう終わった」とインタビューで発言したことが話題になり、その発言をめぐる特集が雑誌で組まれたことがありました。しかしその発言のあともマイペースで、怖くなるくらいの問題作を着々と発表してきたのがいがらし氏。本作『人間一生図巻』(双葉社)は帯に《祝!70歳記念刊行》と書かれており、2025年2月に刊行されていますが、「どうせ読めば面白いというのはわかってます」という先入観が邪魔をして、手に取るのが遅れてしまいました。

これは読まなくては⋯⋯と思うきっかけとなったのは、片手袋研究家・石井公二氏による「デイリーポータルZ」での紹介記事。おりしも双葉社の公式サイトで第1話が無料公開されていたため拝読し、すぐに単行本を買い求めました。1年前の本であっても入手困難なのが昨今の出版事情ですが、今ならまだ新刊本が買えると思います。

評者の同業者、歌人の岡野大嗣氏の代表作に、こんな短歌があります。《生年と没年結ぶハイフンは短い誰のものも等しく》(書肆侃侃房『サイレンと犀』)

歴史上の人物が紹介されるとき、「1946年-2026年」のように、生年と没年が明記されることがありますよね。ハイフンとは「-」の記号の名前です。「〜」という記号がつかわれることもあります。

『人間一生図巻』の一コマ 2

本書『人間一生図巻』は短編集。古今東西の架空の人物20名の生涯が、1名8ページで、「歴史」のように淡々と語られていく構成になっています。たとえば第5話「細川光広」の冒頭には《1951〜1997》と書かれており、《享年46》というのも最初から明かされてしまっています。

20名ぶんの「〜」が、等しく8ページで短く表現される⋯⋯そういうマンガなんです、これは。

前出の「細川光広」は《ふしぎな能力》があり、他人の運命がどうなるのかがわかってしまう、それゆえ自分が何歳で死ぬのかもわかってしまっていた⋯⋯という人物です。

この「細川光広」だけでも長編作品にすることはできそうですが、あえてあっさり8ページでまとめられているところに本作の凄みがあると感じました。過酷な人生を乗り越えた人にも、あっけない人生を過ごした人にも、平等に訪れるのが死です。

評者は57歳。他界した同世代の友人も複数おり、1968〜2026になってもやむを得ない年齢です。自分の人生はどんな8ページだろうと考えずにはいられない、生きているうちに読めてよかった傑作です。

『人間一生図巻』

『人間一生図巻』
いがらしみきお/双葉社
国も時代も異なる20名の人生を、それぞれ8ページずつにまとめた一冊。8ページと聞くと短いように感じるが、不思議と読み応えは十分。

枡野浩一

歌人。タイタン所属。『みんなのドラえもん短歌』(小学館)刊行に向けて、9月3日締め切りの#ひみつ道具短歌コンテスト2026選者を担当。

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